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事例紹介

2019.06.27

スタジアムを軸とした多角的な事業展開で地方のハンデを克服『鹿島アントラーズ』前編

Jリーグでは最多となるJ1年間優勝8回、アジアのクラブNo.1を決める『AFCチャンピオンズリーグ』で昨年初優勝を飾るなど通算20冠を達成した名門サッカークラブ『鹿島アントラーズ』。クラブ運営においては、独自の事業で経営を拡大し、プロスポーツビジネスという枠組みにとらわれず、地方中小企業経営のモデルケースとしても注目されています。その事業展開戦略について、取締役事業部長の鈴木秀樹さんにお聞きしました。

 

取締役事業部長の鈴木秀樹さん

 

クラブの拠点となる4万人収容のスタジアムは、人口およそ6万7000人の茨城県鹿嶋市の鹿島臨海工業地帯に位置します。一般的なクラブ経営の商圏は半径30㎞に最低100万人とされるなか、千葉県全体の人口を入れても78万人程度で、東京からは100㎞以上離れている環境。「圧倒的に不利な条件にある」と鈴木さんは言います。
そのような条件下にも関わらず、2018年決算の営業収入はクラブ史上最高の73億円を達成し、リーグトップクラスの数字を上げています。将来的には、世界で戦えるビッグクラブの指針とされる100億円を目指しているそうです。

 

収益の大きな柱は、広告料収入、入場料収入、グッズ収入、大会賞金・その他事業ですが、初めにどのクラブでも基本となる、試合の興行に関連する『フットボールビジネス』について教えていただきました。
ホームゲーム1試合あたりの平均来場者数は約2万人で、地元だけでなく近隣県や東京などからファンやサポーターなどが多く訪れることから、来場所要時間はJリーグでも最長と言います。
不利な商圏をカバーするために活用しているのがデジタルです。デジタルコンテンツの充実や、電子チケット導入による顧客データの蓄積・分析などをおこなっています。また、会場で配布してほとんど捨てられていた紙のチラシを電子クーポンにし、コスト面でもメリットを生んでいます。さらに今夏は、来場者のスタジアムでの体験を向上させるため、キャッシュレス化に向けた取組や5Gを活用した新たなサービスの提供も検討しているそうです。
「たとえば、顧客データを分析すると、東京から来るお客様は富裕層が多いということがわかりました。そこで、その顧客層に訴求するサービスや商品を用意し、満足度を高めるための工夫をしています。ファンやサポーターの多くがインターネット、そしてモバイルから情報入手をしていますし、10年後を想定してもデジタル戦略は不可欠です」と鈴木さんは説明します。
また、2018年1月に同社とホームタウン5市などで設立した『アントラーズホームタウンDMO』では、着地型旅行商品の造成販売をおこなっており、試合観戦と連携させることで多様な顧客ニーズに応じた高付加価値商品の展開も目指しています。

 

©KASHIMA ANTLERS

 

このように常に新しいアイデアを実践している鹿島アントラーズですが、どのようなクリエイターと協働しているのでしょうか。鈴木さんの答えは意外なものでした。
「明確な課題があって、それを解決するために第三者の専門家にお願いしているというわけではありません。これまでに積み上げてきた経験や実績が今に繋がっているんです。アントラーズにはたくさんのスポンサーがいます。なかには素晴らしいアイデアをお持ちの経営者の方々も多く、そのコミュニケーションのなかで多くを学ばせていただいています。その20数年間の蓄積が財産になっているんです」。クラブとスポンサーの間では、新たなビジネスの協働も盛んにおこなわれているそうです。

 

常に自分たちでアイデアを生み出す姿勢は、クラブの出自にもあります。Jリーグ創設当初、当時のチェアマンに「プロ参加を認めることは99.9999%ないけれど、屋根の付いた1万5千人収容のサッカー専用スタジアムをつくるなら話は別だ」と突き放されたというのはファンの間では有名な話です。このスタジアム建設という無理難題とも思える条件を地域の自治体や企業と一丸となって実現し、Jリーグ加盟を承認されたという歴史があります。
「お荷物のチームとしてスタートしましたから、今みたいにアントラーズが勝つなんて誰も想像していなかったと思います。たとえば他のクラブは、親会社の厚い支援もあり、広告代理店などの協力で華々しく開幕イベントをやっていましたが、我々はそうした余裕はなかった。今も昔も、自分たちで知恵を絞って前へ進むしか方法がなかったんです」と当時を振り返ります。こうしたクラブの背景やスポンサーとの良い関係性が、同社の創造的な事業展開の礎となっているようです。

 

2011年の創設20周年には、50周年を迎える2041年に将来どのような姿を目指すか、それまでに何をすべきかを示した『ビジョンKA41』を策定しました。そのなかで、目指す姿として「世界に挑む強いクラブであり続けること」を挙げています。
「鹿島に県内外のファンやサポーターがいるのは、強いチームだからこそ。チームを強化するためには、事業収入を上げるという課題は切っても切り離せません。私たちのビジネス展開の根底には、『全ては勝利のために』という基本理念が常にあります」と鈴木さんは言います。

 

ノウハウを学びたい各地のクラブ経営者や企業家からの要望もあり、会社の事業やビジョンの進捗をまとめた報告書を作成し、公開しています。
「これは私たちが25年間かけて作りあげてきた『レシピ』です。でも、これを読んだからといってすぐに鹿島と同じような成果を上げることができる魔法の本ではないんです。これはあくまでも鹿島のモデルケースであって、まるっきり当てはまる事例なんてありません。自分のクラブや企業の課題と照らしながら独自の経営のあり方を模索していかなければならないんです。そして私たち自身も、これを公表したからにはさらなる進化を目指さなければならないと思っています」

 

『ANTLERS BRIEF 2019』

 

その言葉通り、鹿島アントラーズは興行関連ビジネス以外にも、新しい事業を次々と展開しています。
後編では鹿島アントラーズのチャレンジについて、具体的にご紹介します。