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事例紹介

2020.03.24

母子が安心して生活できる空間づくり『母子生活支援施設 別府厚生館』

今回は、社会福祉法人 大分県福祉会が運営する『母子生活支援施設 別府厚生館』と、一級建築士・山﨑真司さんとの協働事例をご紹介します。

 

『別府厚生館』は児童福祉法に基づいて運営されている福祉施設です。DV、経済的な問題、母親の発達障がいなどの理由で生活が困難な母子家庭を保護し、自立した生活を目指して相談や支援をおこなっています。母子を保護する施設は全国的に数が少ないため、県外出身者も多く生活しているそうです。

 

施設の外観。施設の性質上、格子や監視カメラが設置されるなどセキュリティ対策が多く施されている

 

クリエイティブ相談室に申し込みがあったのは2019年8月。大分県福祉会は2018年度に大分市の児童養護施設『森の木』を一部改修するにあたり、クリエイティブ相談室を利用しました。その経験を通じ、クリエイターとの協働に可能性を感じて、今回2度目(※)のクリエイティブ相談室の利用に至りました。
※同企業の2回目以降の相談室利用に関する費用は全額自社負担

 

前回、大分県福祉会がクリエイティブ相談室を利用した際の事例はこちら。
入所者や職員が落ち着ける空間を共創。児童養護施設『森の木』

 

今回は施設が築35年を超え、老朽化が進んでいることから、居室を改修したいとの相談でした。5人世帯が生活することもあるという居室は狭小で、収納も不足しています。それらの課題を解決し、少しでも安心して快適に生活できるようリニューアルするとともに、単に内装を新しくするだけでなく、母子が自立に向けて生活できるような居室をデザインしてほしいという願いもありました。

 

このご相談に対してクリエイティブ相談室が紹介したのは、一級建築士の山﨑真司さんです。山崎さんは福祉施設や医療施設を多く手がけ、住宅はもちろん、別府・鉄輪のコワーキングスペース『a-side』の設計や、NPO法人 空き家サポートおおいたの理事として空き家対策をおこなうなど大分を拠点にさまざまな活動をしています。

 

山﨑さんに関する情報はこちらから確認いただけます
プロフィール・実績:http://creativeoita.jp/database/syamasaki/
インタビュー:http://creativeoita.jp/features/Yamadesign

 

山﨑さんはヒアリングや協議を重ね、「母子が安心する居場所や、明るい未来へ向かっていこうと思える場所が必要です。それを限られたスペースで実現させるためには、色・素材・機能・空間の使い方が重要ですね」と伝えたうえで、改修プランを提案しました。

 

打ち合わせのようす

 

2020年3月、『別府厚生館』の3居室の施工が完了しました。居室ごとにアクセントとなる色が異なっているため、ドアを開けるとそれぞれに違った雰囲気が感じられます。「家に帰ってきたという安心感や安らぎを感じてもらえるよう、キーカラーは優しい色調であるアースカラーに設定しました」と山﨑さんは話します。また、収納不足を解決するために、リビングとキッチンに収納を追加しました。リビングに設置したクローゼットは、収容力を高めるため二段がけになっています。さらに扉をつけず、カーテンで緩やかに仕切ることで、圧迫感を解消しました。

 

収納スペース(上:改修前、下:改修後)

 

山﨑さんは多くの福祉施設を設計した経験から、耐久性とデザイン性を併せ持つクロスや家具の採用を提案しました。さらに、スタッキングチェアや折畳みテーブルなど、必要に応じて移動・収納できる家具を選ぶことで、限られた空間を広く使えるよう工夫されています。

 

ダイニングスペース(上:改修前、下:改修後)

 

機能だけでなく、母と社会の関わりや、母子の関係性へのアプローチも考慮されました。以前はトイレ内の手洗い場と洗面台が兼用となっていましたが、独立した洗面台を設けることで、女性が身だしなみを整える場所と機会を創りました。また、キッチンを対面式にしたことで、子どもと親が向き合う時間が増えることも期待されています。

 

玄関に新たに設置された洗面台(左:改修前、右:改修後)

 

改修を終えた山崎さんは「ほんの少しの非日常を加えることで、過去の住居での辛い経験を忘れ、新たな気持ちで自立に向けて生活してもらえたら嬉しい」と話します。

 

また、クライアントとのコミュニケーションも非常にスムーズだったといいます。「別府厚生館はデザインについて一任してくれました。福祉や医療の案件では、代表者の意思決定が現場の声によって大幅に変更されるということもよくあります。今回は打ち合わせの段階から現場主任が参加してくれたことで、非常にスムーズにやりとりが進みました」

 

また別府厚生館の安東館長は「山﨑さんは私たちの要望や相談を的確に捉えて解決してくれました。完成後の居室を見て、職員一同驚きました」と話します。また、「将来的には特定の分野だけでなく、地域全体をケアしていく多機能な施設に移行していくべきだと考えています。今後、そのための施設あり方を具体的に考えるときには、ぜひまたクリエイターの視点を取り入れたいと思っています」とお話しいただきました。

 

別府厚生館の居室は、古い物件をただリニューアルしたのではなく、そこで暮らす人々がこれからどう生きていくのかを思いやってデザインされていました。これから「福祉」や「ケア」などの言葉が持つ意味合いが拡大していくなかで、業界内だけでなくクリエイターなどの新たな視点でその役割を見つめ直すことは、施設の今後にとって非常に大きな意義を持つのではないでしょうか。別府厚生館と山﨑さんとの協働は、その可能性を大いに感じさせるものでした。