MENU

CREATIVE PLATFORM OITA

supported by BEPPU PROJECT

事例紹介

2018.07.19

「誰でも気軽に」をテーマに着物を着る楽しさと喜びを発信『きものかふぇ ゑり章』

今回は、大分県別府市にある『きものかふぇ ゑり章』とアートディレクターの櫻井暢子さんが協働した事例をご紹介します。

2017年7月に別府市の流川通り沿いに、着物の販売や着付けのスペースを持つカフェをオープンした神麻章代さん。着物を着慣れない人や車椅子の方、外国人観光客などが気軽に着られるセパレート式の着物・浴衣をお店の主力商品として販売するにあたり、櫻井さんと協働して『ひとゑ』という新しいブランドを立ち上げました。

世代の違う2人の女性がコラボレーションして新たなビジネスを立ち上げるまでの経緯と、今後の展望について伺いました。

 

3月に大分市でおこなわれた『CREATIVE PLATFORM OITA』報告会で登壇する神麻さんと櫻井さん

 

神麻さんは大分市で和装小物店を営む家庭に生まれ、東京でスタイリストやジェラートの製造・卸・販売会社の経営など、さまざまな職を経験した後、大分へUターンし別府の呉服店に勤務していました。

カフェを始めるきっかけとなったのは、友人から空き店舗を紹介され「ここで何かはじめては」と声をかけられたことでした。バリアフリーに改装されたそのスペースを見て、神麻さんは「車椅子の方も着物を着ることができるサービスを開発できないか」と考えます。そして、さまざまな人が集う楽しい場所を作りたいと思い、呉服店を退職し、半月後には『きものかふぇ ゑり章』をオープンしたそうです。

 

別府市の流川通り沿いにある『きものかふぇ ゑり章』

 

神麻さんが車椅子利用者の着物について調べたところ、佐賀県にある『佐賀嬉野バリアフリーセンター』が開発した上下セパレート式になった浴衣『UD浴衣 (ユニバーサルデザイン浴衣) 』のことを知り、早速センターを訪問したそうです。着物に縁の深かった神麻さんは、『UD浴衣』にいくつか改良すべき点を見つけ、アレンジしたものを製造・販売する許可を得ました。

 

しかし、神麻さんは1人でカフェを運営する傍らで、商品の販売や販促ツールの制作など、何から手をつけていいのかわからず暗中模索していたところ、『クリエイティブ相談室』を知ります。

「相談室でヒアリングを受け、自らの事業を整理しながら説明するなかで、ターゲットを車椅子利用者に限らず、外国人観光客など日頃着物に馴染みのない人たちにも広げられるということに気づきました」と神麻さん。その後、アートディレクターの櫻井暢子さんを紹介されます。

櫻井さんは2016年に『unid 株式会社』を立ち上げ、さまざまな企業のロゴや商品デザイン、Webサイトまでトータルで携わって来られました。櫻井さんのインタビューはこちらをご覧ください。

 

櫻井さんは、「神麻さんは商品を売ることが商売の目的ではなく、いろんな人がお店に来て交流し、笑顔になってほしいという思いをお持ちでした。私も喜びが循環するお店になってほしいと思い、お引き受けしました」と神麻さんとの協働を決めたときの思いを語ります。

 

また、櫻井さんにセパレート式の着物を実際に体験した感想もお聞かせいただきました。

「車椅子に乗ったまま、全身の力を抜いた状態で着付けをしてもらったんですが、ストレスが少なく、あっという間に着られました。美しい着物の柄が視界に入ると世界が変わったようでした。

私は和服が好きなのですが、自分では着られないし、着せてもらっても着崩れてしまうことがしばしばあります。私のように着物を着たくても着られない、着付け教室に通うのは敷居が高い、と思っている人はたくさんいると思います。簡単に着られて、着崩れることがないこの着物は、着物を着る喜びをいろんな人に届ける、価値あるものだと感じました」

セパレート式の着物の下部分は巻くだけで、車椅子利用者の場合は座ったまま足の下に差し込むだけで着られます。上部分は羽織って紐を結ぶだけです。上下の組み合わせを変えたり、下を巻きスカートとして着用したり、さまざまなコーディネートが楽しめます。

「帯結びも、兵児帯やつくり帯にすれば、5分かからずに着付けが完了します。縫い付けられている紐を結ぶだけで着られる、帯や小物のいらない着物など、工夫を加えて開発を続けています」と、神麻さんのアイデアは尽きません。

 

報告会でのセパレート式着物の着付け実演の様子

 

櫻井さんはヒアリングを重ねるうちに、神麻さんの着物のプロとしてのアドバイスやアイデア、ご本人の人柄も、大きな価値だと考えるようになったそうです。また、着物を購入するお客様は店の人との会話を楽しみにしていることや、箪笥に眠っている着物の処分に困っている人が多いことを知ります。このようにニーズとシーズを捉え、櫻井さんが提案したビジネスプランが『ひとゑ』です。

「神麻さんが『ゑり章』を開いたときの思いを形にする、『ひとゑ』というブランドを立ち上げることを提案しました。既製の着物を加工・販売するだけでなく、各家庭に眠っている着物を委託販売したり、買い取って『ひとゑ』に加工したりと、もっと着物を身近に感じられるような仕組みを考えました」と櫻井さん。

神麻さんは1人で運営しているため、販路は広げず『ゑり章』のみに限定しました。ブランド構築の意味においても、まずは『ゑり章』に来て神麻さんとの対話を楽しんだり、店頭でお客様同士の交流が生まれることが重要だと考えたそうです。

この新たなビジネスプランを実行するにあたり、櫻井さんはロゴのデザイン、リーフレットや店頭に飾る垂れ幕の制作、SNSでの発信のアドバイスもしています。

 

櫻井さんがデザインした『ひとゑ』のリーフレット

 

このビジネスプランには、着物の専門家だけでは生まれ得ないアイデアや工夫が多く含まれています。櫻井さんに、この協働でどのようなことに留意していたかを聞きました。

「神麻さんと思いを1つにして進めていくために、ヒアリングした内容をシートにまとめ、整理して共有していきました。自分が知らない世界を知ることができることは、デザイナーという仕事の素晴らしさだと思います。だからこそ、クライアントとの意識にズレが生じないよう気を配っています。こういった積み重ねから信頼関係も生まれると思っています」

 

 

 

この夏から本格的に発売がスタートした浴衣シリーズ

 

最後に、神麻さんに今後の進展を伺いました。

「『ゑり章』をオープンしてから、いろんな方が来てくださり、イベントを開催するなどさまざまなご縁が広がりました。人と人が繋がって、みんなが楽しくなる場所にしたいという私の思いを汲み取っていただけたようで、とても嬉しく思っています。そして今、櫻井さんの力を借りてその思いが形になったことに感謝するとともに、今後はしっかりと発信していきたいと思っています」

 

神麻さんはこれまでの経験から得た、豊かなアイデアと理想を持っていました。それを櫻井さんがしっかりと聞き取り、見える形に落とし込んでいったことで、新たなビジネスプランへと結実しました。世代も専門も異なる女性2人の協働によって誕生したブランドは、いま羽ばたき始めています。

 


 

きものかふぇ ゑり章 https://www.facebook.com/erisho4030/

櫻井暢子さん http://creativeoita.jp/database/sakurai/