MENU

CREATIVE PLATFORM OITA

supported by BEPPU PROJECT

事例紹介

2020.03.12

クリエイターとの二人三脚で新たな市場に挑戦する『FROM NOWHERE』

東京都日野市でさまざまな光学部品を製造・販売している光学ガラスの総合加工メーカー『カドミ光学工業 株式会社』。医療分野や研究者向け分析機器などの精密機器に組み込まれる光学ガラスは、光の屈折や反射によって画像を伝送する光学素子の材料となるため、高い均質性が求められます。カドミ光学工業は、接着剤を使用せずにガラス同士を接合できる高精度な技術をはじめとする、ガラス加工においての高い技術力を誇り、1997年創業と比較的若い企業ながらも業界をリードしています。

 

接着剤を使用せずにガラス同士を接合する高度な技術「オプティカルコンタクト」

 

カドミ光学工業は2014年、クラウドデザインの三浦秀彦さんと協働し、『東京ビジネスデザインアワード』で最優秀賞を受賞しました。カドミ光学工業は代替が効かない光学ガラスの加工において特殊な技術を持っているにも関わらず、なぜ従来とは異なるビジネスモデルの構築に挑戦したのでしょうか。

 

「業界内の競争が激化するなかで、同業他社にはBtoCのオリジナル商品を持つ企業もありました。当社も取り組んでみたいという意思はありましたが実行に移せておらず、BtoBのビジネスモデルのみでやってきました」そう語るのは代表取締役の竹内広之さん。『東京ビジネスデザインアワード』に参加したのは、日野市の産業振興課に推薦されたことがきっかけだったそうです。「思いがけない挑戦でしたが、クリエイターに当社の技術を活かした新鮮なアイデアを提供していただくことで、他社と差別化を図りたいという思いがありました」と竹内さんは振り返ります。
『東京ビジネスデザインアワード』に参加してみると、多数のクリエイターが工場見学に訪れ、デザイン提案が寄せられたそうです。なかでもクラウドデザインのプランを選んだ理由をお聞きすると「そのほかのクリエイターからの提案は、想像ができたんです」とのこと。
すでにBtoCを展開している同業他社のオリジナル商品と差別化を図るためには、自分たちの想像を超える提案でなければならないと考え、カドミ光学工業がパートナーに選んだのが「祈りのための道具」を提案したクラウドデザインでした。

 

カドミ光学工業 代表取締役の竹内広之さん(左)と営業担当の柴崎栄一さん(右)

 

光学ガラスには光を屈折させ、プリズムを生むという特性があります。それをカドミ光学工業の研磨・加工の技術で接合すれば、まるでガラスの塊から切り出した彫刻作品のような造形が可能になります。
「クラウドデザインの三浦さんは、そもそも光学ガラスに関心があり、非常に高い知識をお持ちでした。だから、その特性を理解したうえでいろいろな造形提案をしてくださったんです」。営業を担当する柴崎栄一さんは「最初に形状の提案があったんです。当初はもっとカットが複雑でジュエリーに近いデザインでした。デザインと技術と価格帯との間ですり合わせながら調整を重ね、実現可能な造形のなかで私たちと三浦さん、双方が納得のいく形が生まれたんです」と、第1号商品を紹介してくれました。

 

こうして完成した「祈りのための道具」について柴崎さんは次のようにご説明されました。「ライフスタイルの変化に伴い、近年は形式にとらわれない葬儀や供養のあり方が求められてています。お墓や仏壇を守るということが物理的に難しいケースも増えています。しかし、そういったものがなくても、先祖や亡くなった方を思う時間は持てるんです。『FROM NOWHERE』は、光学ガラスの放つ神秘的な光を、精神的なよりどころとするプロダクトです」。祈りのための道具につけられた『FROM NOWHERE』というシリーズ名は、ウィリアム・モリスの小説タイトルから着想を得た、三浦さんの提案によるものだそうです。労働が機械化された未来と、工芸や手仕事に喜びがあった過去の時代を行き来するこの小説のタイトルを三浦さんがシリーズ名に冠したのは、カドミ光学工業のもの作りの姿勢への共感の現れでもあるのでしょう。

 

カドミ光学工業では機械と精緻な手作業によって光学ガラスを加工している

 

「現在日本では、葬儀の半数近くは家族葬・直葬になっており、樹木葬や宇宙葬など多様性を帯びています。さらに都市部では手元供養品の専門店もできるほど需要が高まっているんです」と柴崎さん。こうした業界は「エンディング産業」と称され、展示会も開催されているのだそうです。カドミ光学工業は『FROM NOWHERE』から毎年新商品を発表し、このような展示会に参加しています。

 

展示会での手応えをお聞きすると、「響く方には響く商品なので、手応えは感じています。しかしその一方で、新しい市場ならではのマーケティングの難しさも感じています」とのこと。「エンディング産業の市場は確実に成長しつつありますし、自社の商品にも自信と誇りを持っています。しかし、それを繋ぐ手段がまだ手探りなんです」と柴崎さん。これはカドミ光学工業だけでなく、業界全体の課題なのだそうです。『FROM NOWHERE』のリリース当初は、インテリアの展示会に出品したり、仏壇屋での販売を試みたりもしたそうです。しかし、インテリアの展示会では「手元供養品」とはなにかを説明しなければなりませんし、仏壇屋に訪れるのは仏壇を求める人が大多数で「手元供養品」のニーズは高くありません。新たなマーケットだからこそ、売り場やニーズが固定されておらず、まだまだ試行錯誤は続いているそうです。しかし、そもそも爆発的に売上が上がったり、一過性のブームが起きたりする市場でもありません。カドミ光学工業が、市場の動向を見守りながら、ともに成長していく息の長い商品として『FROM NOWHERE』を育てていらっしゃるのを感じました。

 

 

最後に、今後の展望を竹内さんにお伺いしました。
「光学ガラスのことを、もっとたくさんの方に知っていただきたいと思っています。今後もクラウドデザインの三浦さんと協働し、手元供養品に限らず、光学ガラスの可能性を広げていきたいと思っています」

 

クリエイターとの協働で、これまでのビジネスモデルとは全く異なる商品の製造・販売に挑戦したカドミ光学工業。ライフスタイルの変化から生まれた若い市場のなかで模索しながらも、これからもクリエイターと二人三脚で歩んでいくという強い意志と相互の信頼感を感じました。