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事例紹介

2020.11.26

「地域に根ざした建築」で未来に残すべき景観を作る 『姫島の家』『光と風の宿』グッドデザイン賞受賞

大分市の建築家・伊藤憲吾さんが手がけた建築が、2020年グッドデザイン賞において受賞しました。今回の受賞作は大分県国東の離島、姫島村に建てた住宅『姫島の家』と、大分県中津市にある老人ホームの増築部分の建築、老人ホーム『光と風の宿』です。

「地域に根差した建築」ということを大切にしてきた伊藤さんに、今回受賞した2件の建築を通してお話をお伺いしました。

 

 

『姫島の家』の依頼を受け、伊藤さんは初めて姫島村に足を運びました。島内を案内してもらい、島の歴史や風土・文化に触れ、姫島らしさを感じられる、景観の1つになるような家を提案したそうです。しかし施主は、若い人が憧れ、定住したくなるような家を建てたいと考えていました。現在、姫島村の島民はおよそ1,700人。伊藤さんは、施主が高齢化による人口減少を憂いていることに気がつき、これからの姫島でニュースタンダードになる家を建てなければいけないと考えるようになったのだそうです。

 

設計にあたり、伊藤さんは現地の大工に姫島で家を建てるために必要な条件などを教わりました。

姫島では空気中の塩分濃度が高くアルミもさびてしまうので、サッシにホースで水をかけ塩分を洗い流しています。それを解決するため、屋根材と同じ塩害に強い建材を外壁にも使用し、軒を作らずに雨で自然にサッシが洗い流せる形状にしました。これは、軒が外壁を守るためのものだった時代から発展した考えなのだそうです。さらに、屋根と外壁のメンテナンスも同じ時期に同じ職人に発注できるので、施工管理性が向上し、維持管理がしやすくなるというメリットもあります。

 

 

また、離島ならではの物流の問題もありました。姫島に建材を運ぶのは人も荷物も乗せるフェリーです。大きな建材を運ぶためには、事前に加工し、組み立てる必要がありました。そこで、屋根と外壁には小部材で運搬がしやすいコロニアル材を選びました。

 

 

もう1つの問題として挙がったのは、姫島には建築に携わる専門の職人が揃っていないということでした。既製品の建具や外壁を組み立てて家を建てるようなことが主流になりつつあると感じていた伊藤さんは、景観が画一化してしまい、どこにでもあるような地方都市の景観になってしまうことを懸念していました。そこで、簡単に組み立てられるものを選ぶのではなく、技術を持った職人を現地に連れて行くなどして、妥協せずに家を建てるべきだと考えました。

伊藤さんは「手間はかかりますが、この島の建築にきちんと向き合いたかったんです」と振り返ります。

 

『姫島の家』は、塩害や地域性、物流、人材などの課題を解決する方法を、すべて建築に組み込んでデザインしたことが評価され受賞に選出されました。

 

 

Photo:YASHIRO PHOTO OFFICE

もう1つの受賞作品『光と風の宿』は、中津市の老人ホームを増築した事例です。

老人ホームの運営者から、「自分たちが年をとって入所するとしても、住まいとして落ち着ける、和風の造りにしたい」と依頼を受けたのだそうです。

 

『光と風の宿』は、木造の温かみのある空間です。また、自由に外出できない入居者のために中庭を設けており、施設内でありながら屋外に出ることができます。

 

Photo:YASHIRO PHOTO OFFICE

Photo:YASHIRO PHOTO OFFICE

城下町である中津市に馴染むよう、木立をイメージした木の格子に切妻屋根を採用し、現代的な和風建築を実現しました。木の格子は意匠だけでなく、閉塞感なくプライバシーを保護し、入居者の飛び出し防止の役割も果たします。

「中津は歴史ある町ですが、必ずしも古典的な建築である必要はありません。しかし、歴史を繋げる必要はあると考えています。機能性は失わず、和風だと感じられる要素を残そうと思いました。そういうものが未来に残す建築だと考えています」と、伊藤さんは語ってくれました。

 

最後に、今回のグッドデザイン賞受賞で、どのような変化があったのか伺いました。「『姫島の家』では塩害のある地域のモデルケースになる住宅ができたと思います。しかし、デザインだけが独り歩きをし、間違った解釈で模倣されることもあります。今回の受賞は、地域特有の建築課題を解決するために考えたということを評価していただいた結果と捉えています。『光と風の宿』では、地域の未来へ残すべき景観や、今後の高齢化社会に向けて老人ホームが入居者にとって住まいであるべきだという、社会に向けて発信したかったことを評価していただけました。今回の受賞が、大分で建築に携わり考えてきたことを、多くの方に知っていただける機会となり良かったと思っています」と話してくださいました。

 

伊藤さんはこれからも大分県を拠点に、未来に繋がる建築を残していきたいと考えているそうです。後進の建築家へも大きな影響を与えている伊藤さん。その「地域に根ざした建築」という考え方が、この先、大分の未来に残すべき景観を作ってくれることを期待しています。

 


 

2020年グッドデザイン賞 伊藤憲吾さん 受賞作品ページ