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CREATIVE PLATFORM OITA

supported by BEPPU PROJECT

事例紹介

2019.12.19

『グッドデザイン賞』の審査を通じて見えてきた、地域に必要とされるデザイン

*この記事は、FINDERSでの連載記事「グッドデザイン賞と「地域社会の問題解決」の共通点 【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(3)」を加筆・再編集したものです

 

 

『グッドデザイン賞』は、デザインによって暮らしや社会をより良くしていくことを目指し、より豊かな社会へと導く優れたデザインを顕彰する制度です。審査対象は、時代の変化とともに拡大され、現在は商品だけでなく、建築やソフトウェア、システム、サービス、活動など、幅広い領域が対象となっています。近年は課題解決のための活動や仕組みなど、無形のデザインの受賞事例も増えているそうです。『グッドデザイン大賞』は、その年度を象徴するデザインとして、審査委員、受賞者、受賞展来場者による投票で最多票数を得た作品に贈られます。

 

 

『CREATIVE PLATFORM OITA』編集長の山出は、今年『グッドデザイン賞』の審査委員、そして地域社会にフォーカスを当てた取組を発見し顕彰する『フォーカス・イシュー』のディレクターとして関わらせていただきました。
今回は、審査を通して見えてきた現代の日本が抱える課題や、それに対する社会のニーズをご紹介します。

 

少子高齢化や環境問題、災害、フードロスなど、世界が直面している課題は数多くあり、今、我々がそれにどう立ち向かっていくかが問われています。
『グッドデザイン賞』にも、さまざまな社会の課題を解決する取組がノミネートされていましたが、数ある作品の中から2019年の大賞を受賞したのは富士フイルム株式会社の診断キット 『結核迅速診断キット』でした。

 

『結核迅速診断キット』

 

世界で結核による死亡者は、現在年間160万人にものぼります。HIV感染者の1番の死因は結核なのだそうです。『結核迅速診断キット』は、健康不良や経済的な事情で検査を受けられずに命を落としてしまうことがないように開発された、安価で簡便な結核の診断キットです。国内随一のフィルムメーカーである富士フイルム株式会社が写真現像の技術を応用し、結核菌の有無を判定する仕組みを開発しました。
この作品で僕が最も興味を持ったのは、課題に対して新たな技術やシステムを開発するのではなく、既に持っている技術を応用して、人命の救助に繋がる商品を生み出したという点です。今ある技術を全く異なる目的のために転用する、これはつまり編集力です。

 

地域の課題を解決するデザインの好例として印象に残ったのは、グッドフォーカス賞[新ビジネスデザイン]に選ばれた、デマンド型交通『チョイソコ』です。

 

デマンド型交通『チョイソコ』

 

これはアイシン精機株式会社と株式会社 スギ薬局との協働事業で、高齢者や交通不便者を対象としたサービスです。電話で事前に申し込みをすれば、自宅最寄りの乗降場から希望の行き先まで乗り合いのマイクロバスで送迎が受けられます。乗降場は高齢者のニーズが高い病院やスーパー、公共施設など。通常の公共交通機関との大きな違いは、事前申し込みによって乗降場があらかじめ決まるので、無駄な立ち寄りがないということです。また、運営については乗降場の周辺施設から協賛を募ります。これにより、乗車料金を安価(一律200円)に設定しても採算がとれるビジネスモデルを構築していました。
『チョイソコ』は、最初から大きな仕組みを作ろうとするのではなく、小さなコミュニティのなかでさまざまなリソースを編集しながら、スピード感を持って実証実験を実施しました。アクセシビリティに課題を持つ人たちに向けた、限定的かつ切実なこのサービスは、今後全国への拡大も予定しているそうです。

 

『結核迅速診断キット』と『チョイソコ』に共通していたのは「編集力」です。地域や社会が抱える課題の解決のために、これから必要とされるのはまさにこの能力であると実感しました。
同時に必要なのは、まず誰かが1歩前に進もうとするということです。そのサービスや商品は誰の役に立ちたいと思っているのか、今後誰が担っていくのか、実現可能性を検証し、持続可能な運営体制も組み立てながら、アイデアを形にしていくために、まずアクションを起こすということが重要です。

 

『結核迅速診断キット』の最終プレゼンでは、HIV陽性患者のなかから結核と診断された患者の70%もが集中しているというアフリカで、結核治療のために奮闘している医師のビデオメッセージが流れました。
『チョイソコ』は地域の高齢者をサポートするため、民間企業が運営主体となって、高齢者のニーズを汲み取るとともに自治体に働きかけることによって、さまざまな課題をクリアし実現させました。
このように、いずれも顔が見える誰かを救うための動きであるということも、現代社会に必要とされるデザインが生まれた要因だったと感じています。

 

大企業であれば、新しいプロジェクトに取りかかる事は比較的容易かもしれません。しかし一方で、本当に地域に必要とされることを実現するまでには時間がかかります。組織の枠にとらわれず、プロジェクトごとにさまざまなセクターや能力を持つ人たちとチームを組める柔軟性が許容されれば、地域の課題はもっと早期に解決できるのかもしれません。
チームを編成するときにまず必要なのは、パッションを持ってプロジェクトを推進する中心人物です。この人物がプロジェクトの動きを左右します。次に必要なのが、そのパッションをロジカルに整理し、プロジェクトを組み立てる人物です。そして、僕が個人的に重要だと思うのは、異なる観点からプロジェクトに問いを投げかける人物です。
パッションを持つ中心人物は、ゴールに向かっていくために力強く物事を推し進めていきます。しかし、その進め方が果たして正しいのかを振り返って考える必要がある。その時に優れた問いを投げかけることができる人物こそが、プロジェクトに強度を持たせるのだと思っています。

 

コンパクトな形であっても、まずはリリースし、評価・検証し、改善する。地域や社会に真に求められる商品やサービスを生むには、このプロセスを短期間でおこなうということが重要なのだと改めて感じました。