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事例紹介

2019.02.07

繊細さの中に秘められたクリエイターの豊かな発想と老舗メーカーの技術力『HAQUA』

『HAQUA』はシール状の箔を水で肌に直接貼る、新感覚のジュエリーです。好みの長さにカットして指輪やブレスレットなどにアレンジすることが可能で、水に強いため1週間ほど長持ちします。その繊細なデザインと上品な光沢は、パーティからアウトドアまで幅広いシーンで活躍します。

この商品を製造・販売しているのは、静岡県に本社がある創業94年の塗料メーカー『和信化学工業 株式会社』。木材用塗料や化粧品容器等の箔の製造・販売で国内外に大きなシェアがある同社が、クリエイティブディレクター /プロダクトデザイナーの辰野しずかさんと出会ったことで生まれたこのジュエリーは、2018年度グッドデザイン賞を受賞しました。

今回は、『和信化学工業 株式会社』 取締役 経営戦略室長 長谷川 隆さんと経営戦略室 浅岡里美さん、『株式会社 Shizuka Tatsuno Studio』代表取締役でクリエイティブディレクター/プロダクトデザイナーの辰野しずかさんに、『HAQUA』開発の経緯とその成果について伺いました。

(左から)辰野さん、長谷川さん、浅岡さん

 

1924年、静岡県静岡市にて創業した『和信化学工業』の主な事業は2つ。1つは家具・住宅等に使用される木部用塗料事業で、大分県立美術館(OPAM)の内装の木部にも使用されているなど、国内でも随一のシェアを誇っています。
もう1つは、化粧品容器や食品パッケージなどの箔押しや転写に用いる『スタンピング箔』と、オリジナル塗料の製造・販売をおこなうフィルム関連事業です。『スタンピング箔』に関しては、日本やヨーロッパの化粧品会社を中心に世界的なシェアがあります。
もともとデザインへの関心が高かったという、同社取締役で経営戦略室長の長谷川さんは、ミラノサローネの報告会に参加し、デザイナーの辰野さんと出会います。

 

辰野さんは1983年生まれ。英国のキングストン大学 プロダクト&家具科を首席で卒業後、デザイン事務所を経て、2011年に独立。2017年より『株式会社 Shizuka Tatsuno Studio』を設立し、家具、生活用品等のデザインを中心に、企画からディレクション、グラフィックデザインなど幅広く手掛けていらっしゃいます。

 

当時『和信化学工業』の社内では、デザインに対する意識は高くなく、その必要性を理解してもらえなかったといいます。しかし長谷川さんは「デザイナーに依頼するとどうなるかを理解してほしい」と、まず取引先や業者向けに発送する塗料サンプルのデザインを辰野さんに依頼したそうです。

辰野さんは、製品へのこだわりや塗料の質感が伝わることを重視し、さらに送付先の企業だけでなく、実際にサンプルを手に取る建築家の目も意識したデザインへと改変しました。また、従来は常識とされていた点の見直しも図り、なぜ変える必要があるのかを1つひとつ丁寧に説明しながらデザインを完成させました。
辰野さんが制作したサンプルは社内外での評判が高く、デザインに対する意識が変わるきっかけとなったそうです。

辰野さんと最初に協働した塗料サンプル

 

なぜ、B to C 事業を始めようと思ったのでしょうか?
「当初の販路はB to Bのみでしたが、売り上げは頭打ちになっていて、新たな分野やターゲットを開拓する必要があると考えていました。箔についての知名度はまだまだ低く、始めは辰野さんに『今までとは違う市場に箔を売り込んでいくには、どのような見せ方にしたらいいか』と相談しました」と長谷川さん。
そんなとき、海外支社から、日本では未発売のタトゥーシールを仕入・販売に関する情報が入ります。それについて意見を聞かれた辰野さんは「海外の派手なタトゥーシールを仕入れて販売するではなく、日本人の感性に合う華奢で繊細なデザインのものをオリジナルで製造し、海外の販路も視野に入れて発信してはどうか」と提案したそうです。
「辰野さんからの提案を聞いたときに、開発の苦労は多いだろうけれど、優位性のある商品として長く製造・販売していけるだろうと思いました。とはいえ、全く新しい挑戦だったので、女性従業員や友人に意見も参考にしました。そこで好意的な反応が多かったので、思い切って舵を切ったんです」と長谷川さんは言います。

 

レジャーやアウトドア等での使用を想定し、夏商材として『HAQUA』の開発はスタートします。
「デザインコンセプトは『箔(haku) + 水(aqua)』。『和信化学工業』の箔の技術を活かすために、華奢なものにしたかったんです。箔は金属よりも細く作れます。また、1個1個のモチーフに隙間を作ることで、通常のアクセサリーでは表現できない繊細さが生まれます。本物のチェーンのように見えるけれど、実は貼ってあると気付くと感動があるのでは、と思いました」と辰野さん。

 

色はゴールド、ピンクゴールド、シルバーの3色展開。どれも優しく上品な色味が特徴です。オリジナルの塗料開発をしている『和信化学工業』だからこそ、他にはない色味や光沢を出せたことも強みになりました。
「箔でシルバーといえば、通常はアルミ系のギラギラした色合いのものになりますが、『HAQUA』のシルバーは少し黄味がかった色で、本来は金に分類されるものです。使う人の視点に立ち、デザイン性やファッション性を重視したことで、それまで当たり前だったことが覆りました」と長谷川さん。
こうして、同社の製造部が持つさまざまな技術を組み合わせて、4ヶ月という驚異的なスピードで『HAQUA』は完成します。

『HAQUA』。シール状になっているので、ブレスレット、リングなど好みの長さにアレンジして使える。 金属成分をフィルムの膜が包んでいるため、金属アレルギーの方も使用できる

 

ターゲットも業界も異なる新たな商品をクリエイターとの協働によって開発するにあたり、困難や戸惑いはなかったのでしょうか?
「PRの専門の方から『商品と会社のイメージにギャップがあるので社名を出さないでください』と言われたときは苦しかったですね。自分たちが作っているという自負があるので、社内でも反発が起き葛藤しました。でも、辰野さんを信じて進めることにしました」
しかし、辰野さんの代官山蔦屋書店でのポップアップイベントで販売されると爆発的に売れ、『自分たちのレベルを飛び越えた商品だね』と社内のリアクションも180度変わったそうです。長谷川さんも「デザインの力の凄さを知りました」と振り返ります。

 

現在の主な販路は、インテリアショップ、百貨店のポップアップショップ、ミュージアムショップなどで、ブランドイメージを保つために卸先は絞っているそうです。

 

 

『HAQUA』発売後、社内で商品やパッケージ等のデザインを重視するようになったといいます。また、リクルーティングにも変化があり、この3年間で女性社員の採用が増えたそうです。

 

辰野さんに、クリエイターとの協働に取り組もうとしている中小企業へのアドバイスをお聞きしました。
「大事なことは、デザインに対して関心を持つこと。『何がいいデザインかわからない』という方には『たくさんデザインを見てください』と言っています。アンテナを張って、それが世の中でどう動いているかを意識してほしいです」

 

最後に、今回の取組について長谷川さんにお伺いしました。
「大事なのは、製品に対して強い思いを持ってくれるクリエイターと協働することだと思います。また、相性も重要です。商品開発はわからないことだらけですが、そんなときはクリエイターを信じてください。企業は協働するクリエイターの活動や考え方をもっとよく知るべきです。『HAQUA』は、辰野さんの活動に共感し、その姿勢を信じたからこそ生まれた商品なんです」

 

まだ世の中にない商品を生み出すために、クリエイターが企業と向き合い、技術や素材の強みを活かすことで生まれた商品『HAQUA』。企業との相互の信頼関係という土台の上で、クリエイターの能力が最大限に発揮されるということを実感した事例でした。

 

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HAQUA  https://haqua.jp/
和信化学工業 株式会社 https://www.washin-chemical.co.jp/
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