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事例紹介

2021.01.07

事業や地域の文化を次代に継承する和菓子店のブランディング

今回は、『クリエイティブ相談室』を活用した事例として、大分県日田市にある『御菓子司 日田とらや』とプランニングディレクターの永田宙郷さんの協働事例についてご紹介します。

永田さんプロデュースのもと、グラフィックデザイナーや空間デザイナー、インテリアデザイナーがタッグを組み、新店舗の空間デザイン、ロゴやパッケージのリニューアル、販路拡大などに取り組んだプロジェクトは、どのように進んだのかお聞きしました。

 

 

日田とらやは、創業60年以上の和菓子店で、看板商品『丸芳露(まるぼうろ)』は、地元の人が幼少期から親しんでいるお菓子の1つです。4代目の財津加奈さんが、夫の眞剛さんとともに、昔ながらの材料と製法を守りながら作っています。

 

看板商品『丸芳露』

 

旧店舗で丸芳露を作る加奈さんと眞剛さん

 

『クリエイティブ相談室』を利用したきっかけについて、加奈さんは、「4人の子どもたちには、しっかりとした土台や展望を築いてバトンを渡したいという思いがありました。店舗の建て替えを検討していたときに、知人からクリエイターの知恵を借りることをアドバイスされ、新店舗をより良い場所にできるかもしれないと考えました」と振り返ります。

 

 

2019年秋にクリエイティブ相談室のヒアリングが始まると、店舗の設計だけではなく、日田とらやとしての方向性や課題の整理もおこないました。

当時、商品を購入する人はほとんどが日田市内の方で、6割は法事やお中元・お歳暮などの贈答用、そのほか4割がお土産や自宅用でした。市外へも商圏を広げつつ、お土産や自宅用の需要も伸ばしたいと考える一方で、商品によってロゴやパッケージデザインが違うなどイメージが統一されていない、パンフレットやWebサイトがないなどの課題もありました。

 

相談室は、財津さんたちの思いや大切にしていることや商品の魅力を見出し、統一した世界観として打ち出すためのコンセプト作りや販路開拓の支援までお手伝いできる人材が必要なのではないかと考え、プランニングディレクターの永田宙郷さんをご紹介します。

永田さんのインタビューはこちらからお読みいただけます。

 

仮設店舗で打ち合わせする(左から) studio moveの中尾彰宏さん、永田さん、Achtの田中敏憲さん

 

永田さんは夫妻の話を聞いて、「子どもが来たときに『おかえり』と言えるお店」「作っている人の顔の見えるお店」といった風景を実現することや、商品の認知度を上げること、季節感を感じさせる商品展開についてアドバイスします。そして、「事業を次代に繋げるだけでなく、日田の文化・地域・生活を繋ぐお店」という方向性を提案します。

この方向性に基づき、お客さんと繋がることができる空間づくりや、市外での販路開拓のためのイベント出展、お店や商品の良さを伝えるためのビジュアルのリニューアル、年間通して飽きさせないための新商品開発などの具体的なプランも提示しました。

 

また、「せっかくのリニューアルなので、しっかり日田を背負う気持ちを屋号にも反映しましょう」と、有名店と同一だったり、同名店も多かった『とらや』の名称を『日田とらや』に変更する大胆な提案もおこない、財津夫妻も屋号からリブランディングしていくことを了承しました。

 

加奈さんは「具体的な事例を交えてご説明いただいたので、お聞きしていてイメージが湧きました」。眞剛さんは「永田さんの話を聞いて、今の売り方では先細りになるし、チャレンジしないと子どもたちにバトンを渡せなくなるということを強く認識しました」と振り返ります。

 

永田さんからの声かけにより、催事用什器の設計と店舗空間設計は、デザイン設計事務所『株式会社 studio move(スタジオモブ)』、催事のアドバイスには、PRなどを手がける『Acht(アハト) 株式会社』、グラフィックデザインに日田市のデザイナー穴井 優さんなど多彩なメンバーがチームを構成し、プロジェクトがスタートします。

 

 

studio moveは、まずは催事用什器のデザインをおこない、日田とらやの商品を魅せるために必要な条件を整理していきました。什器は福井で製作製造されているものをベースに使い、日田とらやの使い勝手に合わせてカスタマイズ。店舗空間は、眞剛さんと福岡の菓子店などを視察し、目指す店舗のイメージを共有していきました。壁の色は菓子を引き立てるため暗いグレーに設定し、壁面や什器には桜の木や日田杉の丸太を使って温かみを与えています。林業家でもあった先代が所有する森林から切り出した材を使った、オリジナルの什器も制作しました。また、菓子を焼いているところをお客さんから見えるようにすることで、ライブ感のある空間にしたそうです。

 

百貨店のイベントなどに多くに実績をもつAchtが催事コーディネートに入り、福岡県朝倉市にある『山科茶舗本店』とコラボレーションしてイベント出展することなども促します。この縁がきっかけで、開店にあわせて日田とらやオリジナルブレンドのお茶も完成しました。

 

ロゴは、財津夫妻がお子さんたちと「丸芳露はお月様みたいだね」と、いつも話しているというエピソードをもとに、丸芳露の正面と断面のシルエットを組み合わせて、穴井さんが作りました。永田さんが示したデザインの方向性に基づき、日田とらやの60年の歴史や従来のイメージを守りつつも、新しさを感じさせます。

 

リニューアルした店内

 

新たに制作した什器にディスプレイして百貨店の催事に出展したときのようす

 

『日田とらや』の新たなロゴ

 

新型コロナウイルス感染症の影響などで開店が延びたものの、2020年11月11日に新店舗がオープン。続々とお客さんが訪れ、生産量を増やしているにも関わらず、連日夕方には売り切れる状況が続いているそうです。また、従来のお客様だけではなく、若い方や新規の顧客も増えたほか、近隣の旅館やホテルの方が宿泊客におすすめのスポットとして紹介され、県外からの来店も増えているそうです。

 

 

眞剛さんは「僕らだけで考えていてもいつまでも答えにはたどり着けなかったのですが、永田さんたちとの協働によって近道を見出すことができたように感じています。お客さんの顔を見ていると、また来たいと思ってもらえるより良い環境を作りたいと感じますね。今はまだ商品の生産だけで手一杯ですが、今後はもっといろんなことに挑戦したいです」と話します。

 

プロジェクトは現在も進行中で、現在は永田さんと新商品の開発やWeb制作も進めています。

また、地元日田の和菓子屋の若手が集まる会なども始めるなど、同世代の横の繋がりを作る取組も自主的に始めているそうです。

今回のプロジェクトで何よりも変わったのは、財津夫妻の意識なのかもしれません。日田とらやの新たなスタートが、地域の文化を継承するための一歩となっていくことを願っています。