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事例紹介

2019.02.07

クリエイティブ人材の誘致で持続可能な地域を目指す「創造的過疎」のまち『神山町』(前編)

徳島県の北東部に位置する徳島県神山町は、農林業が主産業の小さな町です。最盛期は2万人近くいた人口も今では約5300人となり、人口減少、地域産業の衰退、高齢化に伴う過疎化などの問題に直面しています。
しかし近年、起業家やIT系ベンチャーがサテライトオフィスを相次いで開設し、移住者が増えていることで注目を集めています。移住者たちのクリエイティブな発想が地場産業である農林業にも刺激を与え、新しいビジネスやサービスが生まれた実績もあるそうです。
移住先になぜ神山町が選ばれるのか、その魅力を探るべく、現地を訪問してお話を伺いました。
今回は神山町とその隣町の上勝町の取組や、企業の視点による地域における拠点開設の経緯や成果などを前後編にわけてご紹介します。

神山町の景色

 

まずは徳島県上勝町の取組事例をご紹介します。
上勝町は四国で最も人口が少ない、1600人に満たない小さな町ですが、神山町と同様に近年移住者が増えています。なかでもユニークな取組を展開しているのは、クラフトビールの製造・販売施設『RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store』(以下、『RISE & WIN』)です。

 

『RISE & WIN』はごみゼロを目指す上勝町の「ゼロ・ウェイスト」をコンセプトに、これからの環境教育を楽しく理解してもらう場所として作られたクラフトビール製造・販売施設です。建築設計に廃棄された建具や家具を再利用しているほか、量り売り用に繰り返し使えるリターナブルボトルの採用や、クラフトビールの香りづけに上勝特産の柚香 (ゆこう) の廃棄対象になる皮を使用するなど、「リデュース」「リユース」「リサイクル」の3Rを推進し、積極的に事業に取り入れています。

『RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store』の外観。ごみステーションや町内外から集めた建具や家具端材などを再利用しています

『RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store』のクラフトビール。写真右は繰り返し使用できるオリジナルのリターナブルボトル

 

上勝町は2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト (ごみゼロ) 宣言」を発表し、2020年までに“ごみゼロ”を目指しています。町にはごみ収集車はなく、町民全員がごみステーションに自らごみを持ち込みます。分別も45種類と細分されています。
2019年3月には新たなごみステーション、通称『WHY』が完成します。企業や大学関係者向けの研究ラボ、視察者向けの宿泊体験施設、年に数回おこなわれる予定の(仮称)サスティナブルビジスネスクールの教室兼、上勝町民のためのマルチファンクションルーム、「リメイク&リユーズ」を推奨するパーツセンターなどを併設予定であり、いっそう人を引きつける町になっていくものと思います。

上勝町唯一のごみステーション

 

『RISE & WIN』は上勝町のこの取組に共感し、県外から訪れる人々にも体感してもらえるようにとクラフトビールの製造所を開設したのだそうです。このように、地域の取組に共感する人が少しずつ増えていったことで、コミュニティが広がっていきました。

 

次にご紹介するのは、神山町に移住者が増えるきっかけを作った『NPO法人 グリーンバレー』の理事で、神山町の移住支援に関するさまざまな取組を11年続けていらっしゃる『株式会社 リレイション』代表の祁答院 弘智 (けどういん ひろとも)さんです。
「私は徳島市出身です。現在も神山町民ではなく、神山に通って仕事をしています。ですが、神山町のみなさんや移住してきたクリエイターと10数年関わるなかで毎日いろんな刺激を受けています」

『株式会社 リレイション』代表の祁答院 弘智 (けどういん ひろとも)さん

 

祁答院さんが代表を務める『株式会社 リレイション』は「競争から共創へ」をビジョンに掲げ、人と地域の新しい価値を創造することをテーマに活動しています。具体的には地域マネジメントを主軸事業に、人材育成や行政へのコンサルティングなどをおこなっています。

 

「今の神山町は、2人に1人が65歳以上なんですよ。どんなにがんばっても20年後には人口が半分になる。これがこの町の現状です。神山町全体でさまざまな移住支援活動が始まって28年ほど経ちますが、今でもメディアに取り上げていただいています。この活動を牽引してきたのが、私が理事として携わる『NPO法人グリーンバレー』なんです」と祁答院さん。

 

『NPO法人 グリーンバレー』は2004年に設立し、「日本の田舎をステキに変える」を合言葉に、アーティスト・イン・レジデンスや求職者支援講座『神山塾』の開催、サテライトオフィスの誘致など、移住支援を軸とした事業を主に手がけています。

 

『NPO法人 グリーンバレー』の掲げる3つのビジョン
(1)「人」をコンテンツにしたクリエイティブな田舎づくり
(2)多様な人の知恵が融合する『せかいのかみやま』づくり
(3)『創造的過疎』による持続可能な地域づくり

 

「『NPO法人 グリーンバレー』には、“できない理由よりできる方法を!” “Just Do It! (とにかく始めろ)”という方針があります。だから神山町は、若者が挑戦しやすい寛容的な町になったのだと思います」と祁答院さん。

 

神山町を表す言葉として知られる「創造的過疎」は、『NPO法人 グリーンバレー』元理事長の大南信也さんが2007年に作った造語です。「過疎化の現状を受入れる一方で、過疎の中身を改善する」「外部から若者やクリエイティブな人たちを招き入れることにより、人口構成の健全化を図り、多様な働き方が可能なビジネスの場としての価値を高めることで、農林業だけに頼らない持続可能な地域を目指す」というコンセプトを表しています。
過疎地における1番の問題は、雇用がないことです。神山町では雇用を生むために、『ワークインレジデンス(仕事を持った移住者の誘致)』に取り組みました。これは、廃業したパン屋の設備が残っているのでパン職人の移住者を募集するというように、職種を限定して、この町で必要かつ持続可能な職能を持つ人を誘致する事業です。ほかにも、『サテライトオフィス (場所を選ばない企業の誘致)』も力を入れているプロジェクトだそうです。

 

さらに、祁答院さんがおこなっている人材育成事業『神山塾』もあります。『神山塾』は雇用保険を受給できない求職者らが、講義やワークショップ、イベント企画、地域活動などを通して自立に繋がるスキルやノウハウ学ぶ、求職者支援制度プログラムです。全国各地から受講者が集まり、神山町での生活を通して自分の生き方を見つけていくそうです。
これまでに、およそ40%(51名)の卒業生が徳島県に移住しているという、圧倒的な数字が結果として出ています。この人材育成を通じて、町の担い手も育成されているのでしょう。

『神山塾』のワークショップの様子

 

最後に、改めて神山町の魅力を祁答院さんにお伺いしました。
「神山町の移住支援は、そもそも行政の制度があったわけではなく、自主的にやりたいという気持ちから始まっています。近年は、ITやクリエイティブなど最先端の働き方をしている人が町にいることが日常になりました。それを見て刺激を受けた人々とビジョンを共有することで、さらに活動が広がり、人が集まる場所になっていった。これが神山の面白いところですね」

 

後編では神山町のサテライトオフィスや注目が高まっている取組をご紹介します。