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事例紹介

2019.02.14

ビジョンに共感し、人が人を呼ぶ 日本版シリコンバレー『神山町』(後編)

前回の記事でご紹介した、クリエイティブ人材の誘致に取り組む徳島県神山町には、IT企業が続々とサテライトオフィスを開設しています。企業はなぜ神山町を選んだのでしょうか。
その大きな理由の1つとして、神山町には高速の光ファイバー網が整備されていたことが挙げられます。徳島県では、2011年のテレビ放送の完全デジタル化に伴い、視聴可能なチャンネルが10個からわずか3個に減ることになりました。これを危惧し、ケーブルテレビ視聴のために、県内全域に光ファイバー網が整備されたそうです。当時はインターネットの利用者が少なかったため、都心よりも快適に回線が利用できる、恵まれた環境があったのです。
今回は、神山町に開設されたサテライトオフィスをご紹介し、企業にとっての魅力を探ります。

 

最初に紹介するのは、クラウド名刺管理サービスを提供する『Sansan 株式会社』です。東京都に本社を構える同社が神山町にサテライトオフィスを開いたのは、『NPO法人 グリーンバレー』元理事長の大南信也さんとの出会いがきっかけでした。
『Sansan神山ラボ』のオフィスは築70年の古民家を改装した建物です。都会のビルとは異なる、温かな雰囲気のオフィスには、現在2名の社員が常駐しています。「単にチームメンバーの一員が神山町のオフィスにいる、というイメージですね」と語るのは現在『Sansan神山ラボ』で働くエンジニアの辰濱健一さん。

 

「神山町にサテライトオフィスを開いたのは2010年10月のことです。米国シリコンバレーでの勤務経験がある社長の寺田親弘は、日本のITエンジニアの働き方に疑問を抱いていました。日本でもシリコンバレーのように、クリエイティブな人たちが緑の多い環境で活き活きと働くことができないかと考えていたそうです」
そんな思いがあったなか、寺田社長は建築家である友人とともに、古民家再生プロジェクトの視察のために神山町に訪れ、サテライトオフィスの開設を即決したそうです。

 

「神山町はアーティスト・イン・レジデンスも盛んで、地方だけれども海外の人がたくさん来て、クリエイティブな活動をしている。寺田はそんなところにシリコンバレーと同じような魅力を感じたようです」と辰濱さんは語ります。

『Sansan神山ラボ』の外観

 

次に、デジタルアーカイブなど映像関連の事業を展開する『株式会社 プラットイーズ』を紹介します。本社は東京都の恵比寿にあり、2013年7月にサテライトオフィス『えんがわオフィス』を開設しました。豊かな自然に囲まれた築90年の古民家を改築したオフィスでは、「暮らすように働く」をコンセプトに、農作業をおこなったり、地域の方を招いて祭りを開催したりしています。

 

開設のきっかけとなったのは、東日本大震災後にリスク分散のため、本社機能の分散を求められたことでした。そこで、サテライトオフィスの候補地として国内20箇所あまりを調査したそうですが、移住希望者や企業へのサポートを民間が主導し、行政がフォローをするというあり方への共感が決め手となり、神山町に決定したそうです。

 

同社の代表取締役会長の隅田 徹さんが代表を務める『株式会社 神山神領』が運営する宿泊施設『WEEK 神山』は、サテライトオフィスの開設を検討する企業の研修や視察のための宿泊所としても活用されているそうです。

『えんがわオフィス』の外観

『WEEK 神山』の外観

 

次に、『NPO法人 グリーンバレー』が2013年に開設した『神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス』を紹介します。ここは、閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペースです。「成長するオフィス」をコンセプトに、神山町で新しいビジネスコミュニティを創造し、地域発の先進的なサービスやビジネスを生み出すことを目的としています。

 

『神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス』は県内外のIT・クリエイティブ企業のほか、徳島県庁のサテライトオフィスや、町内で弁当宅配サービスをしている企業などが入居しています。またコワーキングスペースは、半日500円からドロップイン利用が可能です。併設の『神山メイカースペース』というデジタル工作室では、講習を受ければ誰でもレーザーカッターや3Dプリンターなどを使って、さまざまなものづくりができます。

 

今後この場所を、人材交流により、異業種間コラボレーションや新事業を創出する「価値創造の場」に育てていくことで、地元雇用やIターンを拡大し、地域経済の活性化に繋げることを目指していくそうです。

『神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス』内の様子

 

最後に紹介するのはサテライトオフィスやIT企業ではありませんが、神山町創生戦略の実践を目指し、移住者を含む町民有志らが2016年4月から始めた『Food Hub Project』です。
『Food Hub Project』は「地産地食」を軸に豊かな関係性を育み、神山の農業と食文化を次の世代に繋いでいくことを目的としています。

 

日本の中山間地域では、農業従事者の高齢化、後継者不足による耕作放棄地の増加、それに伴う鳥獣被害などが大きな社会問題になっています。神山町も農業従事者の平均年齢は71歳だそうです。そんな国内各地にある課題を、シンプルな活動によって解決していくというのがこのプロジェクトの考え方です。『Food Hub Project』は「地域で育て、地域で食べる」場所として、神山町の農業の担い手を育成する活動に加えて、食堂や食品を販売するショップを運営しています。

 

この取組は、町民主導による持続可能かつスピード感のある事業展開が大いに評価され、2018年『グッドデザイン金賞』を受賞しました。

『FOOD Hub Project』が運営する食堂『かま屋』内の様子

 

今回は神山町の移住者や企業にお話を伺い、環境や地域の活動に対する共感こそが移住やオフィス開設の大きな動機となっていることを実感しました。
移住者増加やサテライトオフィスの開設によって新しいコミュニティが増えたことで、近年の神山町では個性的な飲食店や宿泊施設なども日々増えているそうです。こうした動きがさらに波紋を呼び、これからも神山町は変化を続けていくのでしょう。

 

人が集まることによって雇用が生まれ、環境や町が活気を帯びながら変化していく。28年にも渡る民間主導の取組の成果ともいえる神山町に、引き続き注目していきたいと思います。