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事例紹介

2020.03.05

香りを楽しむ文化を牽引する香りの絵の具『香の具』

東京都江東区のキャンドルメーカー『東洋工業 株式会社』から独立し、2013年に創業した『グラーストウキョウ』。その背景には、高い調香技術で良質な香料を使用し、日本に香りの文化を普及したいという思いがありました。
「日本人は体臭があまりないので、香水を使う習慣がありません。しかし、香道のようにそもそも香りを楽しむ文化はあります。そこで、当社は香りを軸にした商品を製造・販売する企業として設立しました」と語るのは、グラーストウキョウ 代表取締役の藤井省吾さん。藤井さんは国内でも珍しい、香りを主軸に商品展開する企業の代表として、自らもアロマセラピストやインストラクターなど、香りに関連する資格も多く取得しています。

同社は2018年に『東京ビジネスデザインアワード』に参加。そのきっかけについて藤井さんは「香りや調香に気軽に親しんでもらえるような商品を作りたいと思ったのですが、社内ではいいアイデアが浮かばなかったんです。クリエイターの新たな視点から、ヒントを得ることができるなら、と直感で参加を決めました」と語ります。

 

調香技術を活かして展開されているグラーストウキョウの商品

 

グラーストウキョウが協働のテーマとして公示したのは「調香技術を広めたい」という内容。「具体的に作りたいもののイメージが定まっていなかったので、クリエイターも提案しやすかったのかもしれませんね」と藤井さん。グラーストウキョウには、たくさんのクリエイターからの提案が寄せられたそうです。そのなかから藤井さんが協働パートナーとして選んだのは、清水 覚さん、山根 準さん、山根芽衣さん、安次嶺 彩香さんの4名からなる、このプロジェクトの提案のために集まったチームからの提案でした。
「ご提案は、エッセンシャルオイルを配合した絵の具を開発し、香りの魅力を楽しみながら学べる新商品として発信するというものでした。絵の具を混ぜ合わせて色を作ると同時に、調香の体験もできるんです。この商品であれば、香りを生活に取り入れてほしい、香りを混ぜる楽しみを知ってほしいという願いが同時に実現できます。開発・製造のイメージも湧きやすかったので、これなら商品化できると思いました」
しかし、藤井さんの想像に反し、その開発は苦戦したそうです。「水彩絵の具と油であるエッセンシャルオイルを混ぜることが、なかなかうまくいきませんでした。想定していた乳化剤ではうまく混ざらず、試行錯誤しました」

 

マッチング成立から審査会までの期間は実質2ヶ月弱。それまでに試作品を完成させなければならないという焦りのなかで、年末年始も返上して藤井さんは試作をくりかえしましたが、うまくいきません。ディレクションを担当するデザイナーの清水さんに連絡し「絵の具ではなくクレヨンに変更したい」と相談したそうです。しかし、絵の具と違ってクレヨンでは色を「混ぜる」のではなく「重ねる」だけになってしまい、気軽に調香体験ができるという当初のコンセプトとズレが生じてしまいます。どうしても諦めきれず、藤井さんは化粧品原料メーカーで研究しているというご友人に相談します。そのときに紹介してもらった添加剤で、絵の具とエッセンシャルオイルを混ぜることに成功し、当初の提案通り試作品を制作することができたのだそうです。

 

グラーストウキョウ 代表取締役の藤井省吾さん

 

審査会には、香りのイメージに合わせてグリーン系ばかりの絵の具のセットとして出品しました。香りの幅広さと奥深さをより多くの人に広げられる可能性が評価され、優秀賞を受賞したものの、審査会では「緑だけでは絵の具としては売れない」「違う色の展開ができないのか」という質問もあったそうです。そこで販売までにブラッシュアップし、赤(=ゼラニウム)、青(=ジュニパーベリー)、黄(=イランイラン)、緑(=パチュリ)、朱(=オレンジ)、紫(=ラベンダー)、茶(=シダーウッド)、白(=ユーカリ)、黒(=ブラックペッパー)の9色展開の商品が完成しました。

 

 

これらはエッセンシャルオイルなどで馴染みのある香りと、その花や葉・枝などの抽出部位から連想する色を組み合わせているのだそうです。「人それぞれに香りの好みはありますが、どれを混ぜても変な香りになることはありません。気軽に楽しみながら香りを作ることができますよ」と藤井さん。

 

商品完成後、新進気鋭のデザイナーやクラフト作家などの商品が集まる『東京インターナショナル・ギフトショー』の『アクティブクリエイターズ』のゾーンに出展し、バイヤーや来場者からは好評を得たと言います。さまざまなジャンルにゾーニングされているこの見本市で、なぜ文具ではなく『アクティブクリエイターズ』に出展したのかを尋ねると「単体の商品のみで出展する場合は、新規性が高くさまざまなジャンルの商品が集まるこのコーナーのほうが注目されやすいんです」とお答えいただきました。また、注目を集める工夫として、『香の具』を使ってポストカードに着色できるワークショップブースを設けたことも効果が高かったようです。
そのほかにも、メディアへの露出や、文具好きの女性が多く集まる大規模なイベントなどへもワークショップブースを出展したことで、SNSを通じた拡散もあったと言います。このように、実際に商品を体験してもらったことが商談に繋がり、現在は文具店やミュージアムショップなどに並ぶなど、これまでとは異なる販路や売場を獲得しました。

 

 

「この商品開発のそもそもの目的は、いろんな人に香りを知ってもらいたい、体験してもらいたいということでした。これまでの当社の商品は香りを主軸にしていましたので、アロマの業界でしか取り上げられなかったのですが、『香の具』は文具、福祉、カラーセラピーなどの業界からも注目していただきました。たくさんの人に香りを楽しんでいただけるきっかけになればうれしいです」と藤井さん。今後は、視覚障がいのある方が香りを頼りに絵を描くことを楽しめるよう、『香の具』のチューブに点字を印字することも検討しているのだそうです。

 

調香の「混ぜる」という工程と、複数の色を混ぜ合わせて使用する水彩絵の具の特性に着目したクリエイターのアイデアから生まれた『香の具』。その背景には、日本人にもっと香りを楽しんでもらいたいという藤井さんの熱意がありました。『香の具』が、これから日本の香りの文化を牽引する商品へと育っていくことを楽しみにしています。