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CREATIVE PLATFORM OITA

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事例紹介

2018.02.01

クリエイターとの信頼関係が生んだ、深い共感を呼ぶクリエイション

今回は、麦焼酎『いいちこ』をはじめ、清酒、ワイン、ブランデー、リキュールなどを製造販売する県内最大級の酒類メーカー『三和酒類 株式会社』の西 太一郎会長にお話を伺いました。
1979年に発売された『いいちこ』は、いまや名前を聞いただけでポスターのイメージが思い浮かぶほど、デザインの力によって企業や商品のイメージが浸透しています。そこには、質の高い製品造りに邁進し続ける三和酒類とデザイナー・河北秀也さんとが両輪となって、企業イメージを創り上げながら歩んで来た歴史があります。

 

 

協働のきっかけは、社員の弟であり人気デザイナーだった河北さんに、西会長が「東京で『いいちこ』の販路を広げたい」と相談したことでした。
「それが、河北さんにとっては大変な迷惑だったんですね。河北さんの思いとしては、一業種一社というのがあった。だから、全く知られていない地方の酒造業者の仕事を受けるということは、今後大手のメーカーから依頼があったとしても断らなければないということです」と西会長。河北さんは当サイトのインタビューで、この西会長からのご相談を受け「『いいちこ』を有名にしなければならない」と、強い覚悟を持ってこの仕事を引き受けた経緯を語ってくださっています。

 

河北さんのはじめの提案は、東京の地下鉄の駅にポスターを貼ることでした。
「地下鉄には景色がないでしょう? だから、地下鉄にこのポスターを貼って景色を創ることで注目を集めようっておっしゃったんですよ」
こうして、駅貼りの規格に合わせてあの大きな横長のポスターが誕生したのです。どの路線の駅に貼るのかということも、イメージを方向付ける条件として重要視していたそうです。

 

南アフリカのナマクワランドで1年のうちに2週間しか咲かないという花の時期に撮影されたポスター

 

こうした広報物を制作する際には事前に見積書が提出され、どの工程にいくらかかるのかをクライアントに明示するのが一般的ですが、『いいちこ』のアートディレクションに関して河北さんはこれを行っていません。
「相見積もりを取って他社と比較されるような仕事ならお断りだって言うんです。撮影現場に一度だけ立ち会ったことがあるのですが、それを見て理解しました。本当に細部までこだわり抜いて創られていて、何にいくらなんて事前に提示できるような世界ではないんですよ」

 

さらに、宣伝部を作ってはいけないというのも協働の条件の1つなのだそうです。
「宣伝部が社内にあると、担当者が写真やキャッチフレーズに意見を言うでしょう。そこでやっとまとまったと思ったら、今度は社長が出て来てイメージと違うって言ったり……そうやって、結果として何の変哲もないものができてしまうような仕事だったらお断りしますって言うんですよ」

 

 

たくさんの人の意見をまとめて作られた媒体は、誰の心にも響かないものになってしまいがちです。覚悟を持って引き受けた仕事だからこそ、自身の責任において高いクオリティを実現するために、河北さんはできるだけご自身の理念を貫いているのです。とはいえ経営者としては、これを条件とするのは非常に勇気のいる決断だったのではないでしょうか。
西会長は「前例のない発注の仕方なので、監査が入ったこともありました。でも、こういうやり方じゃないと、これは創れないんですって説明しました」と言います。このように、企業がデザインやクリエイティブの力を全面的に信頼してきたからこそ、『いいちこ』では深い共感を呼ぶクリエイションが実現したのでしょう。

 

写真に合成などの加工は一切おこなっていない。このポスターは、納得のいくショットが撮れるまで何度もボトルを放り投げて撮影されたもの。

 

さらに、ポスターが納品されるまで、三和酒類にはどこでどんな写真を撮影するといった構想やプランが一切明かされないのだそうです。次にしようとしていることを、たとえ身内にでも打ち明けてしまえば、なにかの拍子に漏れ伝わって他社に出し抜かれてしまうかもしれない。「過去のことはいくらでも語っていい。未来のことは絶対に語ってはいけない」河北さんは西会長に繰り返しそう言っているのだそうです。

これまでに、河北さんのアートディレクションで制作した『いいちこ』のポスターは400枚以上。西会長はずっしりと厚みのあるデザイン集を指し「この本の厚みがうちのブランドの厚みです」とおっしゃっていました。
このポスターそのものが三和酒類の時間の積み重ねであり、河北さんと二人三脚で創り続けて来た新たな価値がここに集積されているのです。

 

 

三和酒類は、『いいちこ』発売当初の売り上げは4億円弱、従業員数は13人でしたが、現在は470億、360人と大きく規模が拡大しています。これは、三和酒類と河北さんが「質の高いものを創る」ということに対して決して妥協せず、互いの領域に絶対的な信頼を寄せながらブランドを築き上げて来た結果なのでしょう。
両者の奇跡的な出会いと、バブル崩壊以降も変わらずクリエイティブに投資し続けて来た西会長の強い信念によって、企業や商品が世界に誇るブランドへと成長したことを改めて実感させていただきました。

 

後編では、企業理念や経営にクリエイターの視点がもたらした影響について、具体例を交えてご紹介します。

 


三和酒類 株式会社

住所:大分県宇佐市大字山本2231番地の1

電話番号:0978-32-1431

公式HP:https://www.iichiko.co.jp