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事例紹介

2020.02.13

ジェラートを通して福祉を問う『SLOW GELATO -MADE IN NONOSHIMA-』

熊本県合志市野々島にある『社会福祉法人愛火の会 野々島学園』は、就労継続支援B型事業、生活介護事業、施設外就労など、障がいのある人々に寄り添いながら、さまざまな事業を展開しています。地域の食材を使用したジェラートを製造・販売する『SLOW GELATO –MADE IN NONOSHIMA-(以下スロージェラート)』も、その活動の1つ。複数のクリエイターと共創した、障がいのある人たちが喜びや誇りを持って働ける場です。
今回は『社会福祉法人愛火の会 野々島学園』理事長の土井章平さんに、その取組について紹介していただきました。

 

 

 

スロージェラート外観・内観

 

スロージェラートの店舗は、とんがり屋根に白いペンキ塗りの壁、窓にはステンドグラスと、まるで絵本に出てくる建物のようです。もともとカフェとして野々島学園の敷地内に作られたものを、デザイナーと施設利用者がDIYで改装したのだそうです。
観葉植物が多く配置され、自然光が差し込む店内には、陶器や手芸品、ガラス製のアクセサリーなど、施設利用者の作った雑貨商品が並んでいます。ショウケースの中には、ジェラートが6種類。栗や桑の葉、焼酎など、熊本県産の旬の食材を使用したオリジナルフレーバーのジェラートが、季節・期間限定で入れ替わるのだそうです。その奥に厨房があり、施設利用者のみなさんがジェラートを製造していました。

 

ジェラート製造のようす

 

まずは土井さんに、福祉業界に関わるようになった経緯について伺いました。
「野々島学園は、もともと父が立ちあげた施設です。当時熊本には自閉症患者の入所施設がなく、有識者だった父が要請を受けて設立しました。僕は海外や東京で、アパレル業界のコンサルティングやブランディング、セレクトショップの立ちあげなどに携わっていたのですが、父の病をきっかけに帰郷しました」

 

土井さんが施設運営に関わり始めてから、従来の福祉になかった活動が実現できた反面、福祉に対する知識を学び、意思共有をするまでのご苦労もあったそうです。
「当時、福祉の関係者には愛だけを語る傾向がありました。でも、愛を持って接するなんて当たり前のことですよね。本当に大切なのは、その人にとっての幸せを実現するための技術と知識を持っていることだと思います。なにが幸せかは、人それぞれです。だから野々島学園は、利用者1人ひとりが自分にとっての幸せを選べる環境でありたいと思っています。重要なのは選べるということ。そして自分自身で意思決定をしたということなんです」

 

野々島学園の理念は、「どこまでも障がいを理解しようとして、どこまでも努力する」。型に嵌めるのではなく、1人ひとりの障がい特性を理解し、支援のあり方を考えています。そのため、野々島学園では決まった作業を割り当てるのではなく、利用者がやりたい仕事があればそれを生み出し、本人の望む形に合わせて施設を変化させてきたのだそうです。

 

土井さんの経験と利用者の特性がマッチして生まれた商品の1つに、利用者の描いた絵をプリントしたタイツがあります。これはアパレル業に携わっていた土井さんだからこそ、デザイナーや工場とのコネクションを活かして開発できた商品です。10年ほど前に開発して以来、大手百貨店で販売されるなど、福祉の枠にとらわれない魅力ある商品として流通しています。

 

施設利用者の絵をモチーフにしたタイツのプロモーション動画

 

スロージェラート設立のきっかけは、『NPO法人 スローレーベル』ディレクターの栗栖良依さんとの出会いでした。スローレーベルは、国内外で活躍するアーティストやデザイナーと企業や福祉施設などを繋ぎ、それぞれの特性を活かした創造性豊かな活動の場づくりに取り組むNPOです。土井さんと栗栖さんは、お互いの活動への理解と共感のもとに、野々島学園の敷地にある元カフェの建物の活用について一緒に考え始めたのだそうです。
「ジェラートの製造・販売というアイデアは、栗栖さんによるものです。ジェラートを商材としたことで一般の方にも利用しやすい店舗となり、結果として利用者が社会に出て行く前に、施設外の方と触れ合う機会が生まれました。地産地消の考え方が浸透してずいぶん経ちますが、スローレーベルではそのサイクルの中に障がいのある人たちが参画する仕組みを作ることで、真の地域包括を目指しているんです」

 

スロージェラートの設立には、多くのクリエイターが関わっています。施工とインテリアは飲食店に詳しいインテリアデザイナーのヤマシタマサトシさん、食器デザインは大分県出身のデザイナー高橋孝治さん、レシピ開発はフードデザイナー『モコメシ』の小沢朋子さんと、それぞれに専門家が携わりました。そしてチーム全体を栗栖さんがディレクターとしてまとめあげ、スロージェラートは2016年7月にオープンしました。

 

「僕はジェラートを通して福祉を問う活動をしているんです」と土井さんは言います。「たくさんのクリエイターが参与したことで、おしゃれな雑誌やテレビ番組などで取り上げられ、それまで障がい福祉に関心を持つことのなかった人たちも多く訪れるようになりました。街で障がいのある人と出会っても、自分との関わりを意識することはあまりありませんよね。でも、ジェラートを目的にこの場所を訪れたり、僕らと出会ったりすることで、ちょっとだけ福祉について考えるきっかけになると思うんです。また、利用者にとって、自分が作った商品がメディアに出たり、たくさんのお客様に喜ばれたりしていることは、誇りや働きがいになっています」

 

 

土井さんは、今後ビジネスがさらに成長した場合に懸念される課題についてもご指摘されました。
「スロージェラートは就労継続支援B型なので、月給や時間給ではなく、出来高を対価として支払っています。たとえば今後スロージェラートがチェーン展開やフランチャイズ化を進めた場合、ロイヤリティも含めてその売上を彼らの収入に加算していけば、1人あたりの月収が数十万円になることもあり得るわけです。しかし、彼らは同時に障害年金も受給しています。仮に生活に十分な収入が得られたとしても、その権利は変わりません。関係者は既にその矛盾に気づいているのですが、前例がないから検討されていないんです。
1つでも事例を作れば、変化が起こせます。僕はスロージェラートでそのノウハウを作ってシェアすることで、福祉業界を一歩前に進めたいと思っているんです」

 

『社会福祉法人愛火の会 野々島学園』理事長の土井章平さん

 

今回は実践を通じて問いを投げかける土井さんのご活動をご紹介いただき、1つのビジネスが社会に及ぼす影響やその可能性を改めて実感させていただきました。
スロージェラートのビジネスモデルの一番の特徴は、視点の多様性にあるのではないでしょうか。多様な視点を取り入れることは、ビジネスの価値を磨き、より魅力的な商品やサービスを提供することに繋がります。
スロージェラートでは、障がいの有無に関わらずクリエイターや施設利用者がそれぞれの本質を発揮し、1つのビジネスを作りあげてきました。そうすることで、さまざまな方面から注目されるとともに、福祉について考えるための一石を社会に投じてきたのです。これは社会包摂の理想的なケースであるとともに、福祉業界に限らずビジネスモデルの設計においても非常に参考になるお話でした。