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事例紹介

2019.01.31

インバウンドの視点でトレンドを探る 坂本知子さんのレクチャーより

1月17日に、大分経済同友会のクリエイティブ大分委員会が開催されました。この日はスペイン バルセロナ在住の坂本知子さんをゲストに、食や建築、デザインなどを軸に、インバウンドの視点でトレンドを探るレクチャーが開催されました。今日はこのレクチャーの様子から、ヨーロッパのトレンド情報や、商品・サービスの開発のヒントをお届けします。

 

坂本さんがスペインに移住したのは、およそ20年ほど前。もともと日本で建築を学んでいた坂本さんは、文化庁の奨学金を受け、1998年から3年間にわたりバルセロナにて建築家エンリック・ミラーレス氏のもとで学びます。その後、バルセロナのアクタール出版社へ移籍、建築・写真・アートなどの書籍の編集経験を積み、そこで出会ったグラフィックデザイナーのご主人と共に数年後、独立されました。

 

そして2012年に雑誌『カーサ・ブルータス』で、漫画家の井上雄彦さんとアントニ・ガウディの建築をめぐる特集のコーディネーターを引き受けた際に、その取材を通じて、カタルーニャに拠点を置く、世界トップクラスのレストランや一流のシェフたちと出会う機会を得たといいます。
坂本さんにご案内いただいた大分経済同友会のクリエイティブ大分委員会のスペイン視察の様子はこちらをご覧ください。

 

「当時の私にとっては、グルメは専門外でした。でも、一流のシェフに出会ってお話しを聞くうちに、ジャンルは違っても、一流のクリエイターにはものの見方や捉え方に共通する点があると思いました」と坂本さん。

 

坂本さんはご自身が出会ったクリエイティブなシェフの1人として、フェラン・アドリアを挙げます。フェラン・アドリアは「世界一予約が取れないレストラン」と称されながらも、2011年7月に閉店した『エル・ブジ』のチーフシェフでした。
『エル・ブジ』は、科学的なアプローチと膨大な量のリサーチと実験を積み重ねる独自の調理法で、食材の食感や形状を一から問い直し、驚きに満ちた食体験を提供しつづけてきたレストランです。

オリーブをキャビアのような食感に変える『エル・ブジ』を代表する調理法『スフィリフィケーション』

 

ミシュランガイドの3つ星獲得や、世界的権威のあるグルメ誌で8年間に5回も世界一のレストランに選ばれるなど、話題が話題を呼び一躍有名店となりました。
しかも、シェフのフェランは料理の専門教育を受けたわけではありません。若い頃にアルバイト先として偶然選んだレストランで食の世界と出会い、持ち前の好奇心で世界中の食材や調理法を研究し始めたのが料理の道に進むきっかけでした。彼にとって、その研究の成果を披露するための場がレストランだったのです。
そして、その披露の方法を体験の提供から全知と経験の集積やアーカイヴ化へと移行すべく、レストランを閉店した現在は、世界中の食材や調理法、レシピなどを網羅したデータベースの構築に取り組みながら研究を続けているそうです。

 

また、フェラン・アドリアと双璧を成すクリエイターとして坂本さんが紹介したのは、弟のアルベルト・アドリアです。
彼は『エル・ブジ』でパティシエを務めていましたが、経営にも長けた人物でした。『エル・ブジ』は、世界で最も有名なレストランであるにもかかわらず、決して大きな利益を出していたとは言えなかったといいます。そこでアルベルトは、『エル・ブジ』閉店後、ビジネスとして持続可能なレストラン経営を目指します。

アドリア兄弟が経営するレストランの1つ『ニーニョ・ビエホ』の厨房

 

坂本さんは、現在アドリア兄弟が経営する7つのレストランのうち、最も個性的な2店舗を紹介しました。

 

1つ目は『エニグマ』です。エニグマは「謎」を意味します。このレストランは、予約が取れた時点で正確な時間が知らされます。他の客が見えないよう入店し、1組ずつサービスを受けることで、まるで全てが自分たちのためだけに用意されているかのような体験が得られるのだそうです。
今世界的に注目されている建築家・RCR アーキテクツが設計した建物は、たくさんの部屋が複数の導線によって繋げられており、1品ごとに部屋を移動しながら食事をするといいます。しかし、原則として、客がその体験の具体的な内容や料理の写真を発信することが禁止されているため、メディアやSNSにも詳しいことは紹介されていません。
アドリア兄弟はこの店を「自分たちの夢であり、やりたかったことが凝縮された場」と表現しているそうです。

 

もう1つは『ハート・イビサ』です。ここはシルク・ドゥ・ソレイユとコラボレーションした、食とパフォーマンスとアートや音楽が楽しめる「踊るためのレストラン」なのだそうです。
食事をしながら最上級のパフォーマンスを鑑賞したり、朝までパフォーマーとともに踊り明かすこともできるといいます。坂本さんは「これをレストランと捉えるのか、クラブやディスコ、あるいはホテルと捉えるのかはわかりません。でも、ここは夕方から翌朝までの体験が、食やパフォーマンス、音楽など、全てが重なり合って総合された1つの流れとして提供されているんです」とご紹介されました。

 

この2つの店舗に共通するのは、食の魅力だけでなく、入店から退店までの間に体験することの全てが、この場所でしか得られない特別なものであり、それを求める人々が世界中から訪れているということです。

坂本知子さん

 

「最近、私の周りにも訪日経験のある人や、機会があれば日本に訪れたいと思っている人が増えてきています。かつては東京や京都のような典型的な都市が人気でしたが、近年はニーズが変わってきていて、“まだ見たことがない日本”を見たいと願う傾向が強いようですね」と坂本さん。特に、訪日意欲のある外国人のなかで「地域の祭りに参加する」「地域住民と交流する」などの体験・交流の需要が高まっているといいます。

 

これらのお話しからは、食や観光のニーズが、流行に乗り遅れまいと定番をフォローするあり方から、その時・その場所でしか得られない、唯一無二の特別な体験を求める傾向へと変化していることが見て取れます。

 

また、坂本さんはご自身の住むカタルーニャについて次のようにお話しされました。
「カタルーニャはピカソ、ダリ、ガウディ、アドリア兄弟など、多くの天才を生みました。カタルーニャを例に考えると、天才を生むにはいくつかの条件があると思います。1つは“天才を受け入れる土壌があるか”。もう1つは“天才が周りの反対を押し切って進めるエネルギーを持てるか”。
天才は納得がいくものができるまで、決して妥協せずに試行錯誤を繰り返します。そのほとんどが無駄に終わってしまいますが、それでも続けること、そしてそれを許容し続けることが、天才を生む条件なんだと思います」

アントニ・ガウディ『サグラダファミリア』

 

ガウディの設計した『サグラダファミリア』は、一見周囲との関わりを持たない突飛な建築物のようにも見えますが、それを見たいと願う人々が世界中から絶えず訪れ、地域や街を変える影響力を持った存在となっています。このように、クリエイターが活躍する町は、魅力的な資源や財産が生まれる可能性を秘めているのかもしれません。その創造のエネルギーを絶やさず、完成まで見守り許容し続けることで、他では決して得られない特別な体験や、そこにしかない魅力が造成され、根付いていくのでしょう。

 

最後に、坂本さんは「海外から何かを学ぼうとするのではなく、交流する・交換するという意識を持ってほしいです。日本から学びたいと思っている人は多いんですよ」とおっしゃっていました。
外に目を向けて情報を吸収することも重要ですが、外からの視点を意識しながら足元を見つめなおすことで、他にはない強みを発見できることもあります。今回は、インバウンドを視野に入れたトレンドをテーマにしたレクチャーでしたが、新たなサービスや商品の開発を考えるうえでも非常に参考になるお話でした。