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事例紹介

2018.07.12

クリエイターの視点で和菓子の可能性を拓いた『但馬屋老舗』

周囲をくじゅう連山や阿蘇山などに囲まれた大分県竹田市。中心部は旧岡藩の城下町としての面影を残し、豊かな自然と歴史と伝統が息づく町です。

この地で200年以上に渡り和菓子の製造・販売をおこなう『但馬屋老舗』。県内で最も古い歴史を持つ老舗和菓子舗が、大分県立美術館(OPAM)開館を記念して、美術家のミヤケマイさんとのコラボレーションで生み出した和菓子は、ユニークな発想と職人の緻密な手作業により、和菓子の世界に新風を吹き込んでいます。

今回は、竹田市にある『但馬屋老舗』の本店を訪れ、老舗企業として町の伝統文化を守ってきた歩みや、ミヤケさんとの協業で得た気付きについて、代表取締役の板井良助さんに伺いました。

 

 

 

 

『但馬屋老舗』は、1804年に兵庫県但馬出身の初代当主・但馬屋 幸助が、旧岡藩の御用御菓子司として創業しました。趣のある本店は、140年前の西南の役からの復興に際して建てられた建物で、昔ながらの竹田の町家の様子を今に伝えています。さまざまな時代の変遷を経て、今も創業の地で商いを続けています。

「我々が作るのは、お茶席で出されるお菓子です。茶の湯は、お花、食事、器、お菓子などさまざまな要素が含まれる、究極のおもてなしの文化です。我々はその文化の中のお菓子の部分を受け持っているという自負があります。なので、多角経営せず、和菓子作り一筋。不器用かもしれませんが、1つの業を完結することを指針と定めています」と板井さんは語ります。

十代の頃は、家業を継ぐかどうか迷っていたそうですが、中国・九州の城下町を旅したときにその意識が変わったそうです。「どの町にも老舗の和菓子屋さんがあり、その町の文化を担っているように感じました。そのとき、和菓子作りはまちづくりだと気付きました。お菓子があって、パッケージがあって、箱がある。これは、店があって、通りがあって、町があるという視点と同じ。本店の建物や景観は文化です。そういったことから、町並み保存の運動や、薪能など竹田で昔から盛んだった伝統文化の継承をおこなってきました」

 

店内には上がり框と畳をあえて残したスペースがあります。

「かつてはここにお客様が腰掛けて、お茶を飲み、店の者と世間話をしながら、お菓子を選んでいました。こういう文化を子どもたちは知りません。昔の暮らしぶりや文化を残すことがまちづくりの根幹だと思っています」

 

かつてはこの畳敷きのスペースに客が腰掛け、店主や店の者とやりとりしながら菓子の注文を受けていた

ショーケースの下には畳が敷かれ、畳の上で商っていたという面影を残している

 

『但馬屋老舗』のモットーは『いつものお菓子を、いつものように』。

「 “いつものお菓子”とは、原点となるレシピに手を加えないということです。伝統的な和菓子はあんの中にたくさんの砂糖を使用します。しかし、時間をかけてじっくり練り続けることで、舌に刺さるような甘さが消えるんです。このような、老舗の味の秘訣や、昔ながらの和菓子作りの常識を変えずに守り続けることを心がけています。 また“いつものように”というのは、気候・湿度・温度の変化に関わらず、年間を通して同じ品質のものを作るということ。表には見えない職人の世界のモットーです」

現在従業員は48人。このモットーは、毎朝朝礼で伝えているそうです。

 

本店の店内では、『三笠野』製造の実演が見られる時間も

 

茶道を嗜む若い人が減っている中で、板井さんは和菓子文化の将来を危惧しながらも、「次の時代の楽しみや豊かさを、お菓子の分野で提供することが我々のミッションだと思っています。伝統を守りつつ、若い人たちにどう理解してもらうか考えています」と語りました。

 

 

 

そのような思いがある中で、2015年に大分県立美術館(OPAM)の開館を記念し、美術家・ミヤケマイさんとの商品開発プロジェクトが始まります。

ミヤケマイさんのインタビューはこちらをご覧ください。

 

板井さんは、作品制作のためにミヤケさんが大分に滞在する際に本店の離れを提供し、制作のためのリサーチや材料集めのために、しばしば竹田の町や県外へも案内したそうです。

その際、ミヤケさんが古い建物や小さなお祭りなど地元の人が見過ごしてしまうようなものに関心を持ち、作品に反映させていく様子が興味深かったといいます。

「歴史、宗教、子育て論まで、マイさんは知識が豊富。我々とは違うフィルターを持っていて、その視点がお菓子作りに反映されていくのが新鮮でした」と当時を振り返ります。

新商品のプランを提案されたときも、非常に独創的なアイデアではありましたが、信頼関係ができていたので拒否反応はなかったと板井さんは言います。

「うちの商品や製造現場をよくご理解いただいていたので、日頃使っている素材や設備で作れるものを提案してくれました。マイさんは製造現場へ足を運び、自分でもやってみるというタイプ。自分自身が体験することで、さまざまなことを吸収し、作り手の事情もよくわかってくださっていました。

マイさんは日頃から作品制作のために多くの職人や企業と協業していますから、工芸の職人やメーカーとの繋がりも深くやり取りにも慣れていらっしゃったので、安心して全てお任せすることができました」

 

但馬屋老舗とミヤケマイさんが協働して開発したミルク味とミルクミント味の落雁『MOTHER OF MERCY』。京都の職人に依頼して木型を制作した 撮影: 阿部良寛

 

OPAM開館記念の干菓子『さいコロがし』。アーティストの人生を題材にしたすごろくになっている 撮影: 阿部良寛

 

ゼロからの商品開発なので、完成までに1年ほど要したそうですが、但馬屋老舗の菓子職人はどんな難題にも『できない』とは言わなかったそうです。「『さいコロがし』のさいころの目は全部手作業で描いています。量産できないのであんまり売れると困るくらいです」と板井さんは言います。

また、販路は初めからミュージアムショップに限定していたそうです。

「お客様にとって入り口となるのは、デザインの美しさや見た目の印象。おいしさは購入して食べてみた結果です。この商品を見てワクワクしてくれたり、デザインに共感してお買いあげいただけたら嬉しいですね」と板井さんは語りました。

 

 

 

 

こうしてできあがった新商品は、OPAMのミュージアムショップだけでなく、ミヤケさんの展覧会を開催する全国各地の美術館やギャラリーなどでの販売に加え、思いがけない場所からも注文があるそうです。

「マイさんが個展を開催すると、その美術館の周辺地域から当舗のWebサイトへのアクセス数が一気に増えるんです。また、マイさんの画集を扱う都内の大手書店など、自分たちでは持っていない販路が広がっています」と板井さん。アーティストの活躍に合わせて販路も広がりを見せています。

 

ミヤケさんとの協業が社内におよぼした影響についてもお尋ねすると「マイさんのように、商品開発にあたって徹底的にリサーチするようになりました」と板井さん。「こういった視点と出会うことが、クリエイターと協業することの意味だと思います。『こんなとき、マイさんのようなクリエイターだったらどうするか』と考え、商品開発に活かしています」

 

 

 

 

最後に、これから、クリエイティブを取り入れようと考えている企業へのメッセージをお聞きしました。

「今までの殻を破るチャンスと捉えてほしいですね。そのためには、経営者にも遊び心が大事だと思います。ビジネスライクになりすぎず、今までの企業理念と多少合わないことも、思い切って受け入れてみると、それが次のステップに繋がります。そう信じるところから、スタートしてほしいですね」

そう話す板井さんの穏やかな笑顔の奥に、文化と伝統を伝える老舗の当主としての誇りと、新たな視点で未来を拓こうとする気概を感じました。


有限会社 但馬屋老舗

住所:大分県竹田市竹田町40番地

電話番号:0974-63-1811

HP:https://tajimaya-roho.co.jp/top/index.html