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事例紹介

2020.03.17

豊後高田の未来を見据えてスタートした『手打天』の限定販売

国東半島の北西部に位置し、周防灘に面した良質な漁場を持つ大分県豊後高田市。自然豊かなこの町で、昭和3年より90年以上にわたって豊後高田の新鮮な海の幸を全国に発信し続けているのが『株式会社 高田魚市場』です。代表取締役社長 桑原 猛さんは同社の4代目。株式会社 スタヂオ・ユニ 三重野 優理さんと協働し、2019年より、毎週土曜日の11時から13時限定で、練り製品『手打天』を揚げたてで直販するという取組をスタートさせました。その背景にあったのは、単に「拡販したい」という考えに留まらない、未来の豊後高田を見据えた大きな思いでした。

 

株式会社 スタヂオ・ユニ アートディレクター 三重野 優理さんと株式会社 高田魚市場 代表取締役社長 桑原 猛さん

 

高田魚市場の大きな特徴は、卸売市場でありながら加工部を持ち、60年以上にわたって天ぷらや蒲鉾を製造していることです。なかでも40年以上続く『手打天』は人気商品。近年では、新しく開発した『真玉の汐』『えそ蒲鉾』が全国蒲鉾品評会で2年連続の入賞を果たすなど、業界において大きな存在感を示しています。

「大分県はこれほど海産物が豊富なのに、代表的な魚加工の土産品がありません。たとえば、仙台には笹かまが、鹿児島にはさつま揚げがありますが、大分にはそのレベルのものがない。大分県内の方でさえ、ハレの日には県外の有名どころの商品を購入してしまうんですよ。だから、大分県を代表する蒲鉾を作って、土産品として育てていきたいと思っているんです」と、商品開発に強い意欲を持つ桑原さん。

 

ともに全国蒲鉾品評会で入賞を果たした『真玉の汐』と『えそ蒲鉾』

 

桑原さんは、商品開発のみでなく、その先も見据えていました。
「これは豊後高田だけでなく日本全体に言えることですが、地球温暖化の影響もあって、ここ15年ほど漁獲量が減り続けています。逆に、サーモンなどの輸入物は増え続けており、地場の魚を食べる機会がほとんどなくなってしまいました。するとどうなるか。消費者は捌き方も食べ方もわからない地場の魚をますます敬遠するようになって、慣れ親しんだ輸入物を買い続けるというサイクルが生まれるんです。こうなると漁師も当社の蒲鉾職人たちも生活できなくなって、業界の未来が先細りしていきます。でも、魚加工品を有名なお土産にすることができれば、そこに産業が生まれ、雇用が生まれます。だからこそ私は、蒲鉾の新商品を作り続けるんです」

 

 

では、なぜその思いが『手打天』の直販に繋がったのでしょうか。桑原さんとパートナーシップを組む、株式会社 スタヂオ・ユニのアートディレクター 三重野 優理さんに聞きました。

「2018年度に開催された『大分クリエイティブ実践カレッジ』で桑原社長とお会いしたことがきっかけでした。この講座では、県内中小企業が実際に抱える課題をテーマに、その解決方法や新たな商品の企画などをクリエイターとともに考えます。このとき桑原社長が提示した課題は「『真玉の汐』の認知度向上」でした。カレッジの期間は半年です。期間内に『真玉の汐』の拡販提案はさせていただいたのですが、提案だけで終わっては非常に残念だと感じました」さらに高田魚市場の未来を見据えたアクションを起こしたいと考えたそうです。

 

「カレッジ終了後、改めて桑原社長にお会いして、 現在の市場や業界で感じていらっしゃる社外社内それぞれに対する課題、 また働いている方々のモチベーション向上や人材活用の取組に対する思い、さらにこれから描いている展望などをさまざまに伺いました。そのなかで1つ気になったのは、長く地元に根付いた存在で、 かつ地元の量販店で販売されている自社商品がありながら、高田魚市場さんの認知度が低いことでした。これからの業界や豊後高田の将来を見据え、大分県を代表するお土産物を作りたいという桑原社長の熱い思いを実現するためには、まずは高田魚市場さんそのものを、地元の方なら誰もが知っているブランドにしたいと思ったんです。そこからスタートすることが『真玉の汐』や『えそ蒲鉾』の認知度向上に繋がる地道かつ確実な道になると考えました」と三重野さん。

 

高田魚市場の魚加工商品の「原点」と言える『手打天』。これからも長く愛される商品であり続けることを願い、歴史あるイメージにトレンドを意識したデザインを考慮した

 

より根本的な課題を探るために1ヶ月ほどかけてヒアリングを重ね、2019年4月に三重野さんは『手打天』を事務所の敷地内で限定販売する施策を提案します。
「高田魚市場さんは蒲鉾やシュウマイなど多くの商品を製造しているのですが、そのなかでも『手打天』は大分県北部を中心に長く作られてきた天ぷらだと桑原社長から伺いました。地元の方に高田魚市場さんをご紹介するのであれば、ハレの日のイメージがある蒲鉾よりも、毎日のおかずとして食べられるものがいい。『手打天』は両手に包丁を持ち、魚のすり身を長方形に整えて揚げます。両手で包丁をさばき、同じ形、重さに成形するには技術が必要です。そういった点から日頃、スーパーなどで販売されている高田魚市場さんの『手打天』は機械で生産されています。しかし桑原社長に伺うと、入社40年を超えた『手打天』の職人さんが社内にいらっしゃるとのこと。これはぜひ、職人さんの技術をアピールするべき、そして手作りの味を地元の方に味わっていただきたいと思いました。高田魚市場さんの『手打天』には、歴史、地域性、技術力といった、ほかにはない強みがたくさん詰まっていたのです。さらに魚市場内で直販することにより、実際に地元の方が来て工場の併設を知っていただけますし、さらには直接エンドユーザーと接することができて、社員の方々のモチベーション向上にも繋がります。桑原社長も強く納得されて話が進んでいきました」

 

しかし、『手打天』を直販するにあたっては、解決すべきハードルもありました。桑原さんは言います。「当社は卸売をしていますから、直販をすることによって、取引先である小売店と競合することは避けるべきだと三重野さんからご指摘いただきました。そこで直販は土曜日のみの開催で、時間も11~13時の2時間に限定しました」

 

「弊社は『ココロを動かすクリエイティブ』を理念に60年以上、さまざまなプロモーション施策に携わってきました。私たちのクリエイティブの対岸には必ず消費者、ユーザーがあり、その方々が私たちのクリエイティブの是非を判断します。したがい、クリエイティブはあくまでも企業の経営戦略における打ち手であることを忘れてはならないと思っています。見た目をかっこよくするだけのものではなく、その良し悪しは、どれだけ集客効果があったか、利益が上がったか、認知を拡大できたか、社員のモチベーションを向上できたか、企業の成長によって測られるべきです」そう語る三重野さんは、限定販売を実施するにあたり、効果的かつ現実的なプロモーションのあり方も提案しました。

「最初に活かしたいと思ったのは、高田魚市場さんの立地の良さです。大きなショッピングモールに続く幹線道路沿いにあって車通りが多いので、まずは敷地の入口に“土曜限定”で“揚げたて”の『手打天』を販売していることがひと目でわかる横断幕を設置しようと考えました。ほかには、県北で発行されている地元誌への広告掲載や、桑原社長によるFacebookの発信などを提案しました」
地元紙に広告を掲載する際には、その効果を測るためにクーポンをつけました。実際に取組が始まると、『手打天』を活用したレシピを考案するなど、社員からも能動的な協力があったそうです。「会社全体で『手打天』を盛りあげていこうという気持ちが伝わってきて、うれしかったです」と三重野さん。

 

事務所の入口に掲げた横断幕は、行き来する車からもよく見える

 

『手打天』の実演販売スタートは2019年7月。現在では2時間で100枚売れることもあるそうで、市外・県外からのお客さまが来ることも増えています。加えて、この状況は社員の変化にも繋がっていると桑原さんは話します。「卸売というのは、一般消費者の声が聞こえづらいんですね。でも、『手打天』の販売ではお客様の“おいしい”という声を直接聞くことができるので、働くうえでの励みにもなっています」

 

年に2回開催される『魚市場祭』での『手打天』の実演販売のようす

 

とはいえ、『手打天』の成功はあくまでも、地元と高田魚市場との接点づくりの第1段階。桑原さんと三重野さんは、すでに次の段階を見据えています。

「最終的に目指すのは、お土産品の開発と、さらにその先にある産業の復興です。まずは『手打天』の認知度向上に伴い、私たち高田魚市場のことを知っていただきたいですね。そして“あの『手打天』を作っている高田魚市場の商品なら買ってみようか”と思っていただけるような流れを作りたい。1つの商品の成功が地域全体、業界全体に広がり、産業の裾野が広がっていくことを目指していきたいですね」と桑原さん。

 

その言葉に、三重野さんが続きます。
「大分は観光県なのでお土産需要は高いです。地元の方への認知は取組の土台として強化しつつ、大分県外からいらっしゃった方への発信にも力を入れていきたいですね。消費者の方々の購入動機が情緒軸中心になっている現在において、クリエイティブを活用されたいと思われる企業は増えていると思います。ただ、弊社としてはその見える部分だけ、アウトプットだけを創るのではなく、まずは目的の部分をしっかりと企業と共有しなければならないと思います。なぜならば提案をするよりも、それを実行し改善することが非常に難しく、なによりも大切だからです。クリエイティブを制作する側が実行フェーズからすべてを企業側に押し付けるようでは、絶対にうまくいきません。高田魚市場さんは桑原社長の非常に前向きで、挑戦するお気持ちの強さがあって、弊社も伴走させていただくことが可能になりました。
桑原社長の夢や業界に対する責任感に、これからもクリエイティブを活用して共創させていただければと強く思っています」

 

豊後高田の、そして大分の産業の未来を見据えて、高田魚市場と三重野さんの二人三脚はいよいよ、スピードアップしていきます。

 

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株式会社 高田魚市場

住所:大分県豊後高田市高田2247-1
電話番号:0978-24-3500
http://takadauoichiba.co.jp/
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