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事例紹介

2019.08.01

イノベーションを生み出す思考とセルフキャスティング『株式会社 Ziba tokyo』

5月23日、大分経済同友会の例会で、株式会社 Ziba tokyo 代表取締役 平田智彦さんによる講演会「『ザ・ファースト・ペンギンス』新しい価値の作り方」が開催されました。平田さんはアメリカ オレゴン州に本部を構えるデザインコンサルティングファームZibaの東京ブランチ代表取締役を務めています。今回は講演から、イノベーションを生み出す思考やセルフキャスティングという概念についてご紹介します。

 

講演の様子

 

デザイン思考やクリエイティブシンキングなど、イノベーションに関する思考法は数多くありますが、それをどのように身につけていけばいいのかわからないという声も多いそうです。その方法論を体系化したものが、大阪ガス 行動観察研究所の所長 松波晴人さんが著し、平田さんがデザインプロデュースした『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』(講談社刊行、2018年4月11日発売)です。

 

「ペンギンがお腹を空かして崖の淵から海を見ているが、最初は誰も飛び込まない。ひょっとしたら飛び込むとシャチにやられるかもしれないからです。しかし1匹が飛び込むとみんなが飛び込む。その第1歩を踏み出すことが必要。本書はその最初の1匹のペンギンになろうと提唱するものです」

平田さんはこの著書を、新たな価値を創造したいと思っている全ての人にアクティブラーニングの教科書の1つとして使ってもらいたいと考えているそうです。
平田さんが代表取締役を務めるZiba tokyoでは、『共創』を重要視しています。オフィスの形態も有機的に変化することが可能で、大小のワークショップや消費者インタビュー、またカスタマージャーニーの検証などをクライアントとともに日常的に実施しています。ITを使ったバーチャルなコミュニケーションを含め、“仮説検証と改良のループ”を出来るだけ多く回す事で体験価値は磨かれていくとZibaは考えているからです。
「これもデザインの思考の大切なプロセスの一部です。今ではデザインの領域が拡大して経営にまで活用されています。京都大学や早稲田大学でワークショップをおこなったときも、工学部の学生やMBA(経営学修士)を持っている学生たちがデザインを活用して問題解決にチャレンジしました。本来デザインは、意匠履修者だけで完結するものではないのです」

 

コンサルティング業務において新しい価値を生む為には答えが「何か」ではなく、新たな「問い」を探すこと。そして、その「問い」は必ずクライアント自身に内包されているため、クライアントとともに考え共創することが重要なポイントになると平田さんは言います。
さらに、新たな「問い」を探すためには勉強してから行動すること(=Learn and Do)ではなく、行動して修正すること(=Do and Learn)、そして学んだことを意識的に忘れるということ(=Unlearn)が必要であると語ります。つまり、バイアスを外し、自身の常識を超えなければ、新しい価値を生み出すことはできないと平田さんは痛切に感じているのだそうです。

 

この講演では、参加者に向けワークをいくつかおこないました。その中から2つご紹介します。
まず1つ目は「アラビア語を全く話せないAさんが、はじめてサウジアラビアに行き、何も困ることなく過ごせたのはなぜでしょう?」というクイズでした。会場からはさまざまな回答がありましたが、全てAさんが大人だという前提で語られていました。
「みなさんのなかで、Aさんは大人だというバイアスが入ってしまっていますね。Aさんが子どもや赤ちゃんだったら困るわけがないんです。これを“確証バイアス”と言います。1度印象がつくとそこから抜け出せなくなります」
平田さんは、多くの成功体験がある人こそバイアスの塊になる可能性が高いため、一旦経験を捨てるということが大切だと言います。一方で、自分自身を常に発展途上のものだと考え、学び続ける“自己変容型”と言われる人はイノベーションを起こしやすいそうです。

 

では、バイアスを外すためにはどうしたら良いのでしょうか。次にご紹介するワークでは、バイアスをリフレーミングする方法を学びました。
お題は「疾走する馬を描いてください」というシンプルなものです。多くの参加者は馬が疾走するイラストを描いていました。
「これは、馬の蹄だけを描いてもいいし、馬という漢字に疾走しているような動きの記号を描き足してもいいんです。バイアスを変えること、リフレーミングすることで、ただ馬が疾走するイラストを描くだけではなく、もっと多様な観点が存在することに気づくのです」と平田さんは説明します。『ザ・ファースト・ペンギンス 新しい価値を生む方法論』の共著者である松波さんが主宰し、平田さんもお手伝いしている『フォーサイト・スクール』ではリフレームワークについて学べるそうです。

 

「イノベーションは技術だけでは起こりません。組織と戦略があって技術がより生きてきます。戦略と組織、つまりはブランドに関わる問題です。また、ユーザーだけではなく、その背景にあるトレンドもきちんと見ることが大事です」と平田さんは語ります。それを強く意識し、Ziba tokyoでは、クライアントのブランドとユーザーのストーリーを繋ぐブリッジの役割を担っているそうです。

 

 

「新価値を市場にプレゼントするには、贈る相手のことを深く理解することが大事です。そして、贈り手である自分たちの意思を明確にすること。2つの結論が新価値を市場に生み出します」と平田さんは話します。

 

最後にセルフキャスティングという平田さんが研究している概念とその事例をご紹介します。
セルフキャスティングとは、新しいサービスや商品によって、その人のクリエーションが刺激されて、新たな物語が展開するという概念です。人は化粧をはじめ、眼鏡、 服装、髪型、コスプレ、身だしなみからイメチェンや変身まで、自分自身の変化を楽しむ能力を本質的に持っています。セルフキャスティングでは、その変化を楽しむ能力を起動させることが起点となります。
12年前、平田さんはスポーツ関連商品を扱う世界的企業のジャパンスタジオの決裁権者に商品企画の提案をする機会があり、シナリオスケッチを描きました。

 

シナリオスケッチ

 

「ここに就学前の子どもがいます。お父さんは大学のバスケットボール部でこの企業のバスケットシューズを履く体験をしました。お母さんは、中学生の頃からこのブランドが気に入っていて、ウェアやバックを所有しています。この子どもがこれからどのようにこのブランドと関係性をつくっていくかが、ブランドと顧客の継続的な関係構築に繋がります」
このようなストーリーを設定したうえで、このプレゼンは子どもと両親および、祖父母だけが描かれている8枚のスケッチで展開されました。スケッチの説明が終わると平田さんは皆に、このプレゼンはランドセルの商品企画だということを伝えます。しかし、このスケッチには肝心なランドセルが一切描かれていません。それにも関わらず日本人のスタッフからは拍手が湧きます。おそらくその企業のブランド価値と技術力がランドセルという商品とシンクロして、新しい価値を提供可能だと想像できたからでしょう。

 

一方、ジャパンスタジオの決済権者は来日直後でランドセルを知りません。秘書が「体重20㎏の就学したばかりの学童が教科書などを持ち運ぶ総重量7㎏の革製のデイパック」と説明しました。決裁権者は「我々のブランドのランドセルだったら小指一本で持ち上がる重量を実現できる」「革の素材ではなくて、ランニングシューズのメッシュ素材を使ったらどうか」と次々にアイデアが飛び出しました。「その時点でこの商品企画は、その決裁権者のアイデアに移行したのです。決裁権者がクリエイターになった瞬間です」と平田さん。これが決裁権者がクリエイターになったセルフキャスティングの実例です。
外部のデザイナーだけでプロジェクトを立ち上げることは困難です。しかし「セルフキャスティングはデザインのプラットフォームです」と平田さんが言うように、この実例ではクライアントの決裁権者自身がクリエイターになることによって、チームの立ち上げや予算組みなどがスムーズに進み、スピード感のあるプロジェクトとなったそうです。

 

「僕がこのシナリオスケッチにランドセルのデザインを一切描かなかった理由の1つは、もし決裁権者がそのデザインが気に入らなかった場合はプロジェクトがアウトになってしまうから。もう1つは、スピードのためです。プレゼンまでの時間はほとんどありませんでした。ランドセルの意匠に時間をかけず、決裁権者がクリエイターになれるホワイトスペースを工夫したんです。ここでのホワイトスペースは、“自分ごとになる共創道具”という仕掛けです。このように開発プロセスの圧縮を実現したり、ステークホルダーの共通言語を作るのもデザインの役割です」と平田さん。

 

「これからは、クライアントと共創するストーリーが重要な鍵となります。最先端の技術でも、顧客が共鳴するストーリーが曖昧になるのであれば、引き算する。その引き算こそが、日本企業に必要な哲学です」平田さんはそれを実践する有効な手段としてセルフキャスティングを展開しているそうです。そして、セルフキャスティングされた人が新しいアイデアと出会うときに、イノベーションが始まります。この出会いをつくるデザインを日々追求する平田さんの考え方は非常に参考になるお話でした。