MENU

CREATIVE PLATFORM OITA

supported by BEPPU PROJECT

事例紹介

2017.05.18

世界に流通するものを作り続ける。d-torsoを生み出す2つの仕組み『アキ工作社』

段ボール製の立体商品d-torsoは、流麗なマネキンから3mのゴジラ、手のひらほどのサイズのミッキーマウスまで、アキ工作社の独自の技術とシステムによって作り出されています。今回は、大分空港から車で約20分、豊かな自然に囲まれた大分県国東市の株式会社アキ工作社を訪問し、社長の松岡勇樹さんにお話を伺いました。

 

画像1

 

1つめの仕組み―二次元を組み合わせて三次元を作る

 

松岡さんは美術大学で建築を学んだ後、建物の構造計算を専門とする設計事務所で働いていたそうです。そのバックグラウンドが、現在のビジネスの骨格を成しています。

もともとd-torsoは、奥様であるニットデザイナーの竹下洋子さんの初個展で使用するために作られたものでした。人体のフォルムをCTスキャンのようにスライスして部品を作り、再構築することで、流線形のラインを持った段ボール製のマネキンを完成させました。XYZ軸を直角に組み合わせるというのは、まさに建築的な発想です。

個展もマネキンも評判が良く、2年ほどかけて意匠登録と実用新案を取得し、アイデアを企業へ売り込んだものの、あまり良い反応はなかったそうです。「このまま埋もれさせるのはもったいない」と、生まれ故郷の国東市安岐町へUターンして、1998年に『株式会社アキ工作社』を創業しました。

 

2001年に審査員推薦によってd-torsoがグッド・デザイン賞を受賞したことから、本格的な事業展開がスタートしました。2004年には、『大分県ビジネスプラングランプリ』の最優秀賞を受賞し、1500万円の補助金を得て、レーザーカッターを増台し、生産体制を整えました。

起業当初からフランスなどヨーロッパを中心に海外との取引もありましたが、2005年にドイツのデュッセルドルフで行われた国際展示会に初出展したことでさらに販路が広がったそうです。

2009年には地元の廃校になった小学校を社屋として借り、現在はこの広々とした空間で設計から製造、梱包・発送、パッケージの撮影まで、全てを社内で行っています。

 

画像2

 

100~400個のパーツから成るd-torsoは、CADで設計し、ダイレクトにレーザーカッターで切り出すことができるため金型が不要で、非常に短期間で設計から製造までできるのが大きな特徴です。松岡さんはd-torsoの人気の理由を「大量生産でも1点ものでもない、d-torsoならではのクラフト感」にあると分析しています。

 

画像3

 

画像4

 

段ボールは加工性が高く、安価で手に入りやすい素材であることから、地元業者から仕入れることが可能です。また、通常のマネキンの1/3~1/5の重量でありながら、耐久性は同程度であり、大事にすれば20年近く持つそうです。組み立て式なので、もし壊れてしまっても、パーツを追加購入すれば修復することも容易です。

アキ工作社では、段ボールだけでなく、アクリル、木、スチールなどさまざまな素材を使った商品も多数製造しています。

 


 

マネキンからクラフト商品へ。お客様の声でB to Cへ発展

 

マネキンを見たお客様から「犬を作って欲しい」というリクエストを受けたことがきっかけとなり、自分でパーツを組み立てて作る『クラフト商品』の第1号が誕生しました。等身大での製作はもちろん、拡大・縮小が自由自在にできることから、さまざまなサイズやデザインの製品が現在も続々と誕生しています。

 

画像5

毎年新作を発表し、年賀の贈り物としても人気の高い『干支シリーズ』

 

マネキンに比べてクラフト商品は一般的な需要が高く、流通しやすいアイテムです。ムーミンやディズニーをはじめ、キャラクターライセンスを持つ企業からのオファーでコラボレーションを展開するようになってからは、雑貨商品として幅広いショップで取り扱われるようになり、ターゲットが広がりました。

「企業からオファーがあったのは、市場に同様の商品がなかったからです。こうしたコラボレーションに挑戦することによってアイテムが増え、社内の技術が磨かれていきました。」

現在800SKU(Stock Keeping Unit:在庫管理上の最小単位)という多品種小ロットで展開していますが、デザインと設計は全て松岡さんが受け持っているそうです。

「ここ数年、知的財産を経済的な価値に転換することを考えています。常に新しいものを作らなければならないという宿命から、現在は活用できていない知財も多くあります。それらを活かす試みの1つとして、インドネシアや韓国などの海外企業とライセンス契約をして、データを供給する取組を進めています。

プロダクトであれば海外との取引には輸送費だけで膨大なコストがかかりますが、データ供給であれば100%の純益が出せます。これは知財であることの強みですね」

松岡さんは、d-torsoを成立させている仕組み自体に作品性を感じていると語っていました。

 


 

2つめの仕組み―『国東時間』週休3日の働き方とは?

 

画像6

 

d-torsoのもう1つの独特の仕組みは、アキ工作社の働き方です。

時間や情報に追われるのではなく、もっと物事と向き合いたいと考え、国東へUターンした松岡さんでしたが、移住後もその多忙さは変わりませんでした。アキ工作社の主な市場は東京や海外であるため、NYから帰国した翌日に日帰りで東京へ出発するような生活が続き、「まるで他人の時間を生きているかのようだった」と松岡さんは当時を語ります。

 

働き方を見直す転機となったのは、2011年の東日本大震災でした。大切に築いてきたものが一瞬にして崩れ去る衝撃や、その状況から立ち上がっていく東北の人たちの様子を見て、暮らしの根幹にある地域との繋がりの重要性を痛感したそうです。また、翌2012年には、初めて前年度の売り上げを下回り、いかに回復を図るかということも大きな課題となりました。

「普通だったら、労働時間を伸ばして生産量を上げようって思うでしょう? でも僕は、それにいいイメージが持てなかったんです。それぞれの土地ごとに、流れる時間の質は違うはず。東京みたいな働き方を国東でやっても、疲弊するだけだと思うんです。仕事に追われると、新しい発想をする余裕がなくなって、モチベーションも精度も落ちてしまいます。そこで逆転の発想として、週休3日制を導入することにしたんです」

こうして1日10時間、月~木曜勤務で週40時間労働の『国東時間』と呼ばれる働き方が始まりました。

この制度の導入は、商品に付加価値をつけたり、利益率の高いものを優先させたり、直接販売の割合を増やしたりと、商品や流通のあり方を見直すきっかけにもなったそうです。その結果、労働時間が短縮されたことにより、製造数が減少しているにもかかわらず、前年度よりも売り上げが3割近くアップしたそうです。これはつまり、労働生産性が上がったということです。

2017年3月からは週32時間労働が導入されました。社員は現在8名。パートを正社員化しようという試みや、定年制の廃止など、ますます働き方改革は進んでいます。

「3日間の休みを漫然と過ごすのでは意味がありません。外に行って勉強しようとか、地域のお祭りに参加しようとか、そういう時間の使い方を会社としては求めています」

しかし、その意図に反して『国東時間』の導入以降、アキ工作社の離職率は上がったのだそうです。

「短時間で成果を上げなければならない分、1人ひとりの成熟度が問われるようになったんです。管理されている方が楽だし、安心するのかもしれませんね。『国東時間』は、導入して今年で4年目に入りました。毎年この制度の継続について社内で協議するんですが、今いるスタッフは『今年こそ結果を出します』と意欲を見せていますよ」

 

アキ工作社では、労働時間を短縮することによって、作業の無駄を省き、生産性を上げるためのさまざまな工夫を凝らし、国東ならではの働き方によって会社を継続しています。松岡さんはプロダクトだけでなく、それを作る人の動きもデザインしているのだと感じました。

「僕はこの働き方を美しいと思う。思い通りにならないし、人は常にぶつかり合うものだけれど、それが面白いところでもありますね」

人に対して投資した時間やコストは、すぐに還元されるものではありません。それでも国東の風土の中でゆっくりと熟成し、さまざまな美しいフォルムを生み出しています。

 


 

株式会社アキ工作社

住所:大分県国東市安岐町富清3209−2

電話番号:0978-64-3002

公式HP:http://www.wtv.co.jp