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CREATIVE PLATFORM OITA

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おしらせ

今回は『おおいたクリエイティブ実践カレッジ』講師の枌(へぎ) 大輔さんをご紹介します。ビジネスデザインプロデューサーとして、事業開発や商品開発に関わる枌さんは、ビジネス的な視点を持って俯瞰して物事を捉えることで、長期的な成長も見据えながら事業提案をしています。なかでも海外からのインバウンド対策を視野に入れた事業プロデュースを得意分野とする枌さんに、事業プロデュースの観点や具体的な事例をお聞かせいただきました。

 

聞き手:CREATIVE PLATFORM OITA スタッフ(CPO)


 

CPO:枌さんが海外からの訪日インバウンド集客事業に関わるようになったきっかけを教えてください。

 

枌:2000年に九州電力のIT戦略子会社である『株式会社 キューデンインフォコム』に入社し、新規事業開発を担当しました。2002年ごろに福岡と韓国釜山の間に敷設された光ファイバーケーブルを活用した新規事業開発というテーマがあり、地元のメディア会社などと勉強会を企画したりしていたのですが、そのなかで韓国人から見た日本について改めて考える機会がありました。たとえば、韓国では日本の旅館のことが全く知られていないんです。その事実を知り、韓国の富裕層に対して、九州の和風温泉旅館情報と、関連する二次交通や観光スポットを発信し、旅館の予約もできるプラットフォームを構築する企画を立てました。
2005年に経産省の『サービス産業創出支援事業』を活用して1億円の予算を確保し、翌年に、韓国人の個人客を対象にした九州の和風温泉旅館予約サイト『九州路(KYUSHURO)』を開設しました。僕はプロジェクト全体の企画・運営管理を担当しました。

 

CPO:この事業の認知度を上げるために、どのような工夫があったのでしょうか?

 

枌:当時はまだ外国人観光客は少なく、「インバウンド」という言葉すらありませんでした。2004年に韓国のコンサル会社に委託して、マーケット調査を実施してみると、認知度は湯布院温泉で2%、黒川温泉が0%という結果でした。
そこで「温泉旅館といえば九州」をコンセプトに、湯布院温泉と黒川温泉を日本で最も人気のある温泉地として売り出そうとしました。さらに「Weekend Zone KYUSHU(週末旅行圏内の九州)」というコンセプトで、週末旅行で遊びにくることができるくらい距離が近い外国であることもPRしました。韓国で年間400万人が訪れる人気の観光地チェジュ島と福岡は、ほとんど同じ緯度にあるんですよ。だから週末を利用して気軽に温泉旅館に泊まりに来ることもできるわけです。このような九州の魅力について、温泉旅館を中心に、『AB-ROAD KOREA』という海外旅行情報誌やファッション雑誌などで紹介してもらいました。また、今では当たり前になったパワーブロガーマーケティングですが、2005年から僕らは取組んでおり、おそらく日本初だと思います。
現在、『九州路』は会員6万人超、月間4〜5000人の韓国人の中流から富裕層を九州の温泉旅館に送客しています。
なお、九州を訪れる外国人観光客数全体の推移を見ると、2003年には45万人でしたが、2018年には500万人が訪れているんです。15年で10倍以上に増加しているんですよね。
今後、韓国、中国以外のアジア各国の経済発展による海外旅行ニーズの増加や、欧米豪の訪日観光客の地方への回遊も期待されるため、この拡大傾向は暫く続くと思いますよ。

 

 

CPO:『九州路』はその後どのように展開していったのでしょうか?

 

枌:『九州路』を通して、いろんな地域を訪れる機会があり、そこで出会った自治体の人から「地域産品を売りたい」「芋掘り体験などの着地型商品の販売を強化したい」など、地域の課題を相談してもらえるようになりました。でも、芋掘り体験を1人500円の参加費で実施したところで、決して大きなビジネスには成長しませんよね。そこで、その目的を改めて考え直してみたんです。芋掘り体験を実施することによって人がたくさん訪れると、道の駅などに立ち寄りますよね。村や自治体にとっては、そこで自分たちの産品が売れるということが一番の狙いなんだということに気がついたんです。
だったら、ものを売るサイトを作ったほうが、より直接的に目標を達成できます。このような経緯から、「インターネット版道の駅」をコンセプトに、野菜や特産品を生産者さんが直接、販売できるECサイト『九州ムラコレ市場』を立ちあげました。
『九州路』の利用者である旅館オーナーさんや、『ムラコレ市場』の農家さんたちが、ITの知識や、語学力を持たなくても情報発信やエンドユーザーに直接販売ができるプラットフォームとなるWebサービスが今後、必要だと考えたのが開発のきっかけでした。

 

CPO:その後、2016年に『株式会社 キューデンインフォコム』を退社し、独立後に『株式会社 コレゾ』を立ちあげられたんですね。枌さんの現在の肩書き、「ビジネスデザインプロデューサー」についてお聞かせください。

 

枌:AIやIoTなどテクノロジーの急速な進展や、少子高齢化に伴い、これからの日本における、労働環境というか、仕事のあり方は大きく変化すると思います。簡単に言うと、人の仕事は、0から1を作る、いわゆる新たな企画を発想することと、9から10にする手直しすることのみになって、2から8の作業は、機械が担うことになります。そう考えると、今後、人が携わるべき仕事は、継続的に事業運営できる新たなサービスや商品を発想し、事業スキームを構築することになります。もしくは、2から8の仕事を担う機械を作るプログラマーやエンジニアですね。
僕は、どのような仕事に携わるときにも必ず、継続的にサービスやモノの販売をおこなうにはどうすれば良いか、将来的なビジネススキームを考慮しながら取り組んでいます。
具体的に言えば、ある商品のパッケージデザインを委託されたとして、言われた通りに制作して納品して終わりではなく、クライアントにとって、この商品の位置づけや、販売ルートなど含めたビジネススキーム全体を俯瞰して、最適なデザインの提案に加え、クライアントのビジネスの長期的な成長も見据えた付加価値の提案までおこないます。そうすることで、信頼関係がさらに醸成されると思いますし、これからの時代に必要とされるビジネス創造スキルを得るためにも、このような考え方を早いうちから訓練するべきだと考えています。
また、スマートフォンの普及や、グローバリズムの進展などにより、見た目もそうですが、機能性や使い勝手など広い意味でのデザイン思考でビジネスを考えることが重要と思い、そういう仕事に対する姿勢を表す言葉として、ビジネスデザインプロデユーサーという肩書きを使っています。

 

 

CPO:ビジネス視点で取り組まれた事例をお聞かせいただけますか?

 

枌:僕は、各地域に赴いて、地方創生関係の仕事に携わることが多いのですが、観光商品開発にしても、お土産など地域産品開発にしても「うちには、これがある」とおすすめできる看板商品を作ることが大事だと考えています。多くの地域で、観光スポットや特産品を紹介するパンフレットを見ると、「うちには、あれやこれや、いろんな商品があります。」となっているじゃないですか。それは確かに素晴らしい資源ですが、観光客にわざわざでもその地域に行きたいと思ってもらうためには、何か特別な体験やモノが必要です。
なので、「看板商品」と「ついで商品」を分けて開発することを意識しています。それを決めることで、プロモーションやブランディングも看板商品に特化して取り組むことができ、「うちには、これがあるので来てください」と、他と差別化することができます。
たとえば、今、取り組んでいる事例として、南阿蘇村のお土産品開発があるのですが、そこでは『あか牛のキーマカレー』を看板商品として開発しました。南阿蘇村の自然や天然のイメージを打ち出すために、この商品には添加物を一切入れていません。それから「これを買ったついでにこれを買う」という行動を促す「ついで商品」として、南阿蘇村の白川水源の水で炭酸水など、看板商品のコンセプトとマッチする商品を複数開発しました。商品開発にあたっては、僕がコンセプト設定などビジネスデザインの検討をおこない、カレーの製造メーカーさんやデザイナーさんなど複数の専門の業者さんと開発を進めました。

 

『あか牛のキーマカレー』のパッケージ(取材時に検討していたパッケージ案)

 

CPO:クライアントと専門家の間に立つプロデューサーとして、商品開発に関わられたのですね。海外からのインバウンド集客を目指す取り組みについてもお聞かせください。

 

枌:そうですね。今後、地理的に近いアジアからのリピーターに加え、欧米豪からの集客を考慮すれば、「特別な体験」と「量より質」がキーワードになると思います。
「特別な体験」とは、「ここでしかできない体験」と言い換えることができます。その「特別な体験」を、「野遊び」のコンセプトで仕掛けることで、観光集客の「看板商品」となりえるのではないかと考えています。今、販売に向けて、旅行商品化をお手伝いしている『阿蘇草原BBQ』は、普段、一般人の立ち入りが制限されている牧場で、牧場主さん自らがあか牛のBBQを振る舞うものです。
この商品の重要なポイントは、普段は、あか牛が草を食べているだけの無価値の空間に、おしゃれな設えを施し、料理を提供することで、その場所を付加価値化するということです。
また、あか牛のBBQ自体、町のレストランでは、3,000円程度で食べることができますが、この『阿蘇草原BBQ』のモニターツアーでは、食事だけで1人7,000円いただきました。それでもみなさん大満足でしたよ。この差額は、場所の価値の評価です。
しかも、ポップアップでおこなうことで、場所は、元に戻すことができますし、事業化のための初期コストもそれほどかけずに、トライしてみることができます。僕は、これを「場所のシェアリングエコノミー」の1つと考えています。
また、このような仕掛けは、環境保全や、受け入れ側の体制などを考慮すれば、従来のマスで大量に集客するモデルはなく、健康志向や特別な体験を志向する旅慣れた中流から富裕層をターゲットに行う必要があります。そこで「量より質」を目指して商品を企画することも重要と考えています。

 

『阿蘇草原BBQ』のモニターツアーでは草原におしゃれな設えを施し空間を価値化した

 

CPO:こういう事業プランを考えるうえでのポイントを教えてください。また、これからインバウンド対策をしたいと考えている企業に対してアドバイスをお願いします。

 

枌:まずは、自分がその企画を本当に「おもしろい」と思うかです。自分が本当に楽しむことができて、他の人にお勧めしたくなるものでないと、意味がないと思っています。また、一言でPRできるシンプルさや、SNS映えする要素も必要だと思います。ユーザーが情報を拡散してくれますからね。
それから、特別な世界観を作るデザイン思考。ただ食事をするよりも「自然の風が吹くなかで地元の人が作ってくれる」という状況の方が、背景が伝わるじゃないですか。重要なのは見方を変える仕掛けを考えて、付加価値をつけることです。
野遊びは「ここにしかない景色と人」に出会うということです。この土地に行かないと体験できないんです。だから、わざわざでも人が来る理由になるんですよ。

 

『阿蘇草原BBQ』のモニターツアーで「野遊び」を体験する様子

 

CPO:ビジネスデザインの事業は、今後どのように展開していくのでしょうか?

 

枌:僕は2017年に『九州路(KYUSHURO)』や、その知見を活かした新たな事業を展開するため、『株式会社 VISIT九州』という旅行会社を設立しました。
『九州路』は、今年、韓国の大手ポータルサイトと連携して、日本国内の温泉旅館の販売を拡大していく予定です。この韓国向けの訪日旅行流通プラットフォームが確立できれば、そのプラットフォームを活用して、温泉旅館以外の「阿蘇草原BBQ」のような地域の「野遊び」商品を紹介・販売したいと考えています。また、この韓国向けプラットフォームの横展開、他国向け展開にも取り組みたいと考えています。
なので、当面は、九州で魅力的な「野遊び」商品を造成することに力を注ごうと思っています。

 

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枌(へぎ) 大輔
株式会社 コレゾ 代表取締役
株式会社 VISIT九州 代表取締役

 

1972年生まれ。福岡県北九州市出身。
2005年、韓国の個人旅行者を九州の和風旅館に集客するポータルサイト『九州路』を立ちあげ、事業プロデューサーとして従事。
2011年、九州の地域産品専門のネット通販サイト『九州ムラコレ市場』の立ちあげに携わり、ネット×リアル×電波による地域産品販売の仕掛けを構築。
上記に関連して、各省庁や地方自治体の事業にも数多く携わる。
2016年に同社を退社し、㈱コレゾを設立。
その他、㈱VISIT九州代表取締役、(一社)野遊びリーグ設立社員などを務める。

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