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CREATIVE PLATFORM OITA

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おしらせ

2018.05.31

伊藤憲吾さん(伊藤憲吾建築設計事務所 代表/一級建築士)

今回は、一級建築士の伊藤憲吾さんをご紹介します。伊藤さんは工業高校の建築科を卒業後、大分市の設計事務所に就職しました。2009年に独立し、住宅や施設などの設計を手がける傍ら、現在は大分県建築士会青年委員長としての活動や、竹田市の空き家を活用した『竹田まちホテル』など地域コミュニティの形成やまちづくりにも積極的に関わっています。伊藤さんが日頃仕事で心がけていることや、さまざまな活動にたずさわる思いについてお聞きしました。

 

聞き手:CREATIVE PLATFORM OITA スタッフ(CPO)

 


 

CPO:一級建築士を志したきっかけやこれまでの経歴をお聞かせください。

 

伊藤:自分でものを作って稼げる仕事がいいなと漠然と思っていて、図面を起こして家や施設を作る建築士の仕事は面白そうだなと感じ、工業高校建築科へ進みました。ただ、本当に建築士の仕事のやりがいを知ったのは、卒業後に地元の設計事務所で働きはじめてからです。建築士としての実務だけでなく建築家としての志や心意気を学ばせてもらいました。

 

CPO:具体的にどういったことが現在のご活動の根幹になっているのですか?

 

伊藤:建築は毎回違う場所と人に出会います。その1つひとつに向き合っていく姿勢というか、覚悟みたいなものです。建築は何年もその場に存在し、周りの建物がなくなったりすれば今まで見えなかった壁や窓が見えるようになる可能性もあります。今見えている部分だけではなく、長期的な視点ですべてに配慮する必要があるんです。当時は思い至らなくて、設計図を見せては怒られてばかりでしたが、あのときの経験や気づきが今に繋がっています。

クライアントや施工会社と一緒に造り上げる楽しさや、できあがったときにお施主さんが私の手を握りしめて喜んでくれて、「建築士は人に喜ばれる仕事なんだなぁ」と実感したことは今でも覚えています。そうやって現場で経験を積み重ねて、建築家としての幹を築いてきました。

 

CPO:2009年に独立した経緯をお聞かせください。

 

伊藤:先輩方が築いてきた大分の建築界の土壌を、次の世代に繋いでいける存在にならなきゃいけないと思ったんです。同時期にお世話になった方や後輩が他界してしまい、受け取った彼らの思いや技術を自分が途絶えさせてしまうかもしれないという怖さや責任も感じていました。自分を育ててくれた地元の業界がより良くなるように、主体的に動きたいと思ったんです。

 

 

 

CPO:建築士のお仕事は多岐に渡りますよね。

 

伊藤:はい。主な仕事は、設計と現場監理です。図面を描くデザイナーのようなイメージが先行しがちですが、デザインをする作業は全体の10分の1ぐらいかもしれません。設計以外にも、法律や予算、環境問題の話など、建物を建てるために調べたり、考えたりすべきことは多岐に渡っていて、複合的で難しい仕事だなといまだに思います。家を建てるのは一生に一度の大きな買い物ですし、お子さんがいるご家庭なら彼らを育む環境を作るわけですから、住まう人の人格や未来にも影響を与える可能性がある、責任の大きな仕事です。

お施主さんに楽しんでもらいながら一緒に造っていきたいという思いがあるので、建築にまつわる難しい話をわかりやすく伝えていくことも仕事の1つだと考えています。それと、見積りは適正価格を知って納得してもらいたいという思いから、私は複数の建設会社さんに見積りをお願いしています。

 

CPO:ほかにお仕事されるときに心がけていることがあればお聞かせください。

 

伊藤:クライアントとの会話や対話です。打ち合わせが2〜3時間あったとしたら業務的な打ち合わせは実質30分ぐらいで終わって、雑談をしていることもありますが、これは実はクライアントの考え方を知るきっかけになるのですごく大切なんです。クライアントは建築のプロではありませんから、自分の要望をどうアウトプットしていいかわかりませんよね。そういうときに、こちらが相手のことをよく知っていると、寄り添った提案ができます。実際に手がけた住宅の案件では、「とにかくリビングは広い方がいい」というご意見があり、よくよく話を聞いてみると奥様が閉鎖的な空間が苦手だということがわかりました。そこで、部屋を広くするだけでなく、窓を大きく開けることで開放感のあるデザインを提案したんです。それは対話なしには生まれなかったアイデアです。

 

CPO:ほかに具体的な事例があればご紹介いただけますか?

 

伊藤:最近ですと、別府市のペットと一緒に泊まれる宿『Ugoユーゴ』です。オーナーが犬や猫を飼っていて「観光の町の別府でも、ペットと一緒に泊まれるところが少ない。もっと一緒に過ごせる場所をつくろう」という思いから生まれた自宅兼宿泊施設です。宿泊施設3棟とカフェ、ドッグランなどが敷地内にあります。ペットのことを考えて、床材はメンテナンスしやすく、臭いがつきにくい素材にしました。いまのところ案件の約7割は住宅ですが、ユーゴのような宿やクリニック、店舗などを手がけることもあります。契約から完成まで1年ぐらいが目安です。半年ぐらいはじっくり設計期間として設けるようにしていて、ヒアリングしながら図面を書いては消しを繰り返しています。

 

 

施工:(株)平野工務店、ランドスケープデザイン:LOAM、撮影:八代写真事務所

 

CPO:建築士をより身近に感じてもらうための取組もされているそうですね。

 

伊藤:独立してすぐの2010年に、大分市で若手中心の建築展『ART PLAZA U_40 建築家展』を同業の仲間たちと企画しました。そもそものきっかけは、地元出身の偉大な建築家・磯崎 新さんの作品が常設されている、建築家にとってはまたとない場所『ART PLAZA』を活用したかったのと、若手建築家が自分の作品に対する思いを発表する機会を作りたかったんです。年齢制限があって、私自身はもう卒業してしまいましたが、建築展は毎年1回開催していて、来年で10年目になり年々面白くなっているように思います。参加者は手弁当なので大変ですが、同じ世代の建築家が切磋琢磨できる場になっています。また、一般の方にも多く来ていただけるので、建築家をより身近な存在に感じてもらえるフラットな場になっていると思います。

 

CPO:以前、大分県建築士会の取材で、リノベーション講座なども開催していると伺いました。伊藤さんご自身もリノベーションの案件を手がけていらっしゃるんですか?

 

伊藤:はい。最近では今ある建物をどう使うかという相談も増えています。人口が減って、余ってきている建物や空間に、どのような新しい価値を見出せるかを模索する動きが各地でおこっています。私が竹田市の方や友人に誘われて一緒に取り組んでいる『竹田まちホテル』もそういった流れの1つだと思います。これは竹田の城下町全体を宿泊施設に見立て、駅の一部をフロントとし、お客様は町に点在する空き家に泊まれるという仕組みです。この取組が、町のにぎわいづくりや建築が余っていく状況に対する1つの答えになればと思っています。

 

運営:合同会社POLAR、設計:後藤建築設計事務所と伊藤憲吾建築設計事務所の協働設計、施工・写真撮影:(有)ベネッツ

 

CPO:今日お邪魔している事務所も改装されていますね。

 

伊藤:事務所は築40年くらいのアパートの1室です。床下にあった空間を活用し、床と天井は剥いで空間容積を大きくしているんです。畳数や坪数などの平面的な広さだけでなく、空間を意識して活用することで魅力が高まったと思います。施工してくれたのは有限会社ハンエイという工務店で、実は大家さんなんです。床材の張り方や古いトグルスイッチなど彼らの遊び心もふんだんに入っています。

僕らが改装して使うことで空間の魅力が上がれば、建築としての価値は高まるはずだと考えていて、大家さんには僕らが退去した後に家賃をちょっと上がるといいなと話をしています。住めば住むほど価値が上がるということや、時間の経過が価値となることを実証したり、デザインやクリエィティブの力を試したりするためのちょっとした実験のつもりです。

 

 

 

 

CPO:今後やってみたいことがあればお聞かせください。

 

伊藤:景観や場所を大切にした建築をしたいですね。大分県は個性が豊かで、どこに行っても1つとして同じロケーションはありません。一般的に、マンションならば全住戸南向き・日当たり良好などの条件が人気ですが、別府だと東向きの「別府湾眺望あり」の物件が人気だったりします。土地の条件によっても、建築の考え方と発想は変わるので、画一的な同じものを作りたくないと思っている私みたいな作り手としては、こんないい場所はありません。そんな建築を増やすことで、建物は新しくなりつつも「その土地らしさ」を伝え、ひいては町の魅力アップに寄与していきたいです。

 


伊藤憲吾

伊藤憲吾建築設計事務所 代表/一級建築士

 

1976年 大分市生まれ。大分県立鶴崎工業高校建築科卒業

1995年 株式会社辻設計

2003年 ラッツ・アーキテクツ 株式会社

2009年 伊藤憲吾建築設計事務所設立