おしらせ
今回は、大分県を中心に活動する大工チーム、『snld (以下、スヌルンド)』の河野 健太郎さんにお話を伺いました。スヌルンドは「施主とフェアな考え方で空間作りをしていく」ことを大切にし、数々の店舗や個人宅の内装やリノベーション、また家具制作も手掛けています。
内装やリノベーションに特化した空間作りをする今のスタイルになった経緯や、空間作りに対する思いをお聞きしました。
聞き手:CREATIVE PLATFORM OITA (CPO)
取材日:2020年7月27日
CPO:大工を目指したきっかけや現職に至るまでの経緯を教えてください。
河野:実家が国東市で代々、大工を営んでいたんです。幼い頃から父の作業場や現場にも出入りし、大工という仕事に慣れ親しんでいたこともあり、自然と大工になりたいと思うようになりました。高校の建築科を卒業した後、建設会社の木造大工として経験を積み、実家の建設会社で働くようになりました。その頃、実家の倉庫の2階を自分でリノベーションし、空間作りに興味を持つようになりました。勉強のためにいろいろな建築物もめぐりましたね。
CPO:スヌルンドとして活動を始めたきっかけは?
河野:大工の仕事は設計図通りに施工することです。しかし、施主さんと対話することなく建物を建てることに違和感を覚え、お客様と一緒に空間を作りたいと思い、独立しました。当初は宮大工の修行をしていた弟と『Plus』というユニットを組み、内装や家具制作の仕事を始めました。6~7年経った頃、現在のスヌルンドのメンバーでもある手嶋秀明に、手伝ってもらうようになりました。
現在は私と手嶋の2人で活動をしていますが、お互いが得意とする領域がはっきり分かれているので、役割を分担して仕事をしています。

施主の提案に刺激を受けたという個人宅の内装
CPO:どのように分担しているのかをお聞かせください。
河野:私はまずお客様とよく話をし、どのような空間にしたいと思っていらっしゃるのかを十分に聞き取ります。そのイメージやご希望を、建物本来の構造や素材に取り入れたデザインを考え、平面図に起こします。一方、手嶋は溶接や施工の仕上げなどを得意としていますので、作ることに関しては完全に任せています。
建築家はまず設計図を書き、予め計画を立ててから施工を始めます。しかし僕ら大工は、状況に応じて柔軟に計画を変更することもできます。施工中に、建物から味のある古材のような素材が出てきたら、それをリノベーションの素材として取り入れたりもしています。

大きなガラス戸で開放的な空間の和菓子店。ツリーハウスで遊び心を演出した
CPO:リノベーションを中心に手がけていますが、1から建物を建てることはしないのですか?
河野:はい。建物を1から建てるには、建築士を通して構造設計など諸々の許可申請を取る必要があります。そうするとお客様と対話しながら空間作りをしていくという独立時の思いから外れてしまいます。受けた仕事を全て自分たちの手で完成させるため、1から建てたいという依頼はお断りし、リノベーションや内装という方法を選んでいます。

一面がガラスに覆われた建物の持ち味を活かした美容院。古い窓枠や扉でパーティションを制作
CPO:スヌルンドの空間作りへのこだわりについてお聞きしたいです。
河野:スヌルンドはリノベーションだけではなく、空間に合わせた家具制作もしています。
この部屋にあるアイアンの脚の椅子は、大分銀行赤レンガ館を施工したときに出てきた古材で作ったサンプルです。この椅子を置くことによって、赤レンガ館が経てきた時間の経過に触れることができると思うんです。
よく同じものを作ってほしいと言われることがありますが、そこにしかない素材を使って作るということにこだわっているので、同じものは2度と作らないようにしています。
それは建物をリノベーションすることによって、よそにはない唯一の空間が生まれることに似ているのかもしれませんね。その建物のために作ったものは、よそでは作りません。
あくまでも、その空間のためだけのものづくりをしたいと考えています。

素材や作例、工法などを実際に見て相談ができるスヌルンドのショールーム
CPO:「お客様と空間作りをしていく」ということについて、具体的にお聞かせください。
河野:常に意識をしているのは「施主とフェアな考え方で空間作りをする」ということです。まずは、お客様にどのような雰囲気でどのような空間にしたいかをしっかり聞き取ります。そして、その物件が持っている魅力や活かすべき部分などをご提案し、納得していただくまで話をします。お客様の当初の希望を忠実に再現しようとするのではなく、お客様のイメージや空間の心地良さを考え、より良いプランをご提案したいと思っています。そのためにできることは惜しまずやる。それが「フェアな考え方で空間作りをする」ということだと思っています。
キッチンや洗面所、バスルーム、カウンター、家具などは、既製品を使った方が安くできると思っているお客様も多いのですが、オリジナルを作ってもそれほど高くならない場合も多いんですよ。
また、可能な限りお客様自身でリノベーションすることもおすすめしています。お客様のこだわりを詰め込んだ空間を作るのですから、できあがるまで待っているのではなく、一緒に実現していきたいんです。一緒に作っていくということを経験したお客様は、その後も自分で手を加えながら、空間を育てることを楽しんでいらっしゃいますよ。

店内に大木や植物を配置した美容室。小屋の中にある席ではゆっくりした時間が流れる
CPO:スヌルンドがお客様に選ばれる理由は何だとかお考えですか。
河野:私達は営業というものをしたことがありません。お客様の多くは、私達がこれまでに手掛けた店舗や住宅の、時間が経った状態を見てご依頼いただいているようです。
私達はリノベーションするときに、建物が年を経るごとにより風合いが増すよう、素材感を大事にしながら施工しています。そこで人が暮らしたり活動したりすれば、建物には必ず傷や汚れが生じます。ピカピカの既製品は、傷ついたときに「傷んだ」と感じてしまいます。しかし年を経るごとに風合いを増す素材や塗料を使うと、傷や汚れは「傷み」ではなく「味わい」になっていきます。私達は、その場所で過ごした時間の証も愛せるように作るということを大事にしています。その考えに共感してくれたお客様が依頼してくださるのだと思っています。
スヌルンドのWebサイトは、これまで手掛けてきたリノベーション物件の写真を多く掲載しています。実際にお客様がイメージをしやすいように、ディテールの写真をたくさん掲載しているので、細かい部分までイメージも持ちやすいのだと感じています。
CPO:これからどのようなことに挑戦していきたいですか。
河野:もっと無茶な依頼をしてくるお客様と空間作りをしてみたいですね。
面白いこだわりや難しいご要望をいただくと、ワクワクするんです。お客様のこだわりを活かしながら、もっと思ってもみなかったような空間を生み出していきたいです。
河野健太郎
大工 / 『snld』
大分県国東市出身
幼い頃より家業の大工という仕事に憧れ、高校は建築科を卒業。建設会社の木造大工として経験を積んだあと、実家の建設会社で建築の仕事し、実弟と内装や家具作りを手掛ける『Plus』というユニットで活動を始める。その後、現在のユニットパートナーの手嶋氏が加入。10年の節目に『snld』に改名。
大分県を中心に、店舗や個人宅のリノベーション、内装、家具制作まで独自の提案をしながら手掛けている。
URL:https://snld.jp/
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