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おしらせ

2019.07.11

松本康史さん(大分県立芸術文化短期大学 准教授/プロダクトデザイナー)

今回は、大分県立芸術文化短期大学准教授で、プロダクトデザイナーの松本康史さんにお話を伺いました。松本さんは、産学官連携で生まれた『C-Fit-Chair』という高齢者用の椅子の開発などに関わっています。「深いところにある本質をうまく汲み取ることが、デザイナーが発揮すべき能力」という松本さんに、これまでの企業との協働事例や、デザイナーの役割などをお聞きしました。

 

聞き手:山出淳也
取材日:2019年5月22日


山出:まずデザインの仕事を志したきっかけと、これまでの経緯を教えてください。

 

松本:高校3年生のときに地元の書店でインテリアデザイナーの倉俣史朗さんの本と出会い、こんな世界があるんだと衝撃を受けてデザイン系の大学に進学しました。卒業後は医療機器メーカーのインハウスデザイナーとして就職しましたが、医療関係という特殊な事情もあってデザインの制約が多く、4年で退職しました。それから自費で東北芸術工科大学の大学院に進学し、成形合板という特殊な技術を用いたプロダクトを専門とされている先生の研究室に入りました。制約に縛られていた社会人のときには出会わなかった自由なデザインに触れ、自分の視野が一気に広がりました。そのあと同大学で助手を務める傍ら、デザイナーの登竜門と呼ばれるコンペティションの優秀賞を何度かいただき、デザイナーとしての実績を積み重ね、現在の大分県立芸術文化短期大学に着任しました。

 

山出:今までどのような作品を作られたのでしょうか?

 

松本:2008年に制作した『sasa-bune』シリーズはR加工を施した2枚の板を左右対称に組み合わせた構造になっています。もともと山形県の家具メーカーからいただいた端材を自分でカットして組み上げたことがきっかけで生まれました。それから2009年に制作した『sasa-bune Chair』は公共空間にプライベートスペースを作るというコンセプトで作りました。隣の椅子とぴったり密着するにもかかわらず椅子の幅を1.5人分に広くしているため座りながら荷物も置くことができます。

 

(手前) 『sasa-bune Stool』

『sasa-bune Chair』

 

山出:これまで企業と協働された事例をお聞かせください。

 

松本:中津家具 株式会社さんの『C-Fit-Chair』という高齢者用の椅子の開発にたずさわりました。これは、中津家具 株式会社さんが大分県産業科学技術センターに相談したことをきっかけに、大分県立看護科学大学、デザイナーの松野奈帆さんと大分県立芸術文化短期大学の僕がチームに加わり、産学官が連携して商品開発をする『高齢者施設用木製椅子のデザイン開発に関する研究』という事業として始動しました。

 

『C-Fit-Chair』

 

山出:松野さんと松本さんはどちらもデザイナーですが、それぞれの関わり方についてお聞かせください。

 

松本:僕がコンセプトを組み立て、それに基づいて松野さんがスタイリングをしました。デザインというよりも、設計とスタイリストですね。
コンセプトを組み立てるにあたり、まずは高齢者の生活スタイルをリサーチしました。普段の椅子の使い心地をヒアリングすると、多くが「座り心地が悪い」という意見だったんですよ。椅子に座ったときに豊かな経験ができていない人が多いということを知りました。さらに、みなさんとてもおしゃべりが好きなんです。リサーチの結果をチームにフィードバックすると、今回作る製品は“楽しく会話や食事ができる椅子”がいいんじゃないかという話になりました。
このプロジェクトではコンセプトを設計する前に、ある物語をスケッチしたんです。その物語に登場する人物を豊かにする椅子作りを目指すことで、ビジョンをチーム全員で共有しました。松野さんには立ち上がりやすく、掴まりやすい椅子のデザインを複数案出してもらい、そこからプロトタイプを作りました。大分県立看護科学大学の先生の専門的な意見を聞きながら、人体模型を椅子に座らせてデータを取り、最終的に1つの案に絞りました。それから何度も試作を繰り返して最終製品に繋がり、この椅子は2017年にグッドデザイン賞を受賞しました。

 

山出:実際に製品を利用した方のリアクションはどうだったんですか?

 

松本:椅子が納品された福祉施設へ行って感想をインタビューしてみたところ、肯定的な意見が多く評価は概ね良好ではあったんですが、一方で施設や利用者の性質上、こちらの意図通りにはご利用いただけない状況があることがわかりました。この製品は、1人ひとりの座り心地に対応し、調整できることが特徴です。しかし高齢者は自分で細かな調整ができません。また、施設では椅子は共用ですから、個人の身体に合うようにセットしていても、他の人が座るときにはリセットされてしまうんです。
最初に物語のスケッチを描いたとき、椅子にふきだしをつけ、高齢者に「どうぞお座りください」と語りかけるシーンを描いたんです。そこにどんな言葉が入るのかをイメージすることで、コンセプトを組み立てていきました。しかし、実際の使用シーンを観察すると、必ずしも全ての利用者に対して「どうぞお座りください」と語りかけているとは限らないことに気づかされます。賞を取って、販売できたから終わりではなく、きちんと感想を聞いて改善し続けることが必要だと考えています。

 

『C-Fit-Chair』物語のスケッチ

 

山出:たとえば企業や行政から自分の専門に収まらないような依頼をされた場合、産学官の事例のようにほかの方とチームを組まれるのでしょうか?

 

松本:はい。今回面白かったのは異なる分野のプロフェッショナルがそれぞれの視点から話をしてくれたことです。同じ分野の人で集まるとだいたい声の大きい人の意見が通りますが、異分野だとまったくそういうことがなく、お互いの視点を尊重しながら連携できました。

 

山出:コミュニケーションがうまくできた要因は何だと思いますか?

 

松本:高齢者へのヒアリングや現場の視察を通じて、チームのみんながお互いの視点に共感し、ビジョンが共有できたことですね。また、今回はそれぞれ専門分野の視点で意見が言えたのでほぼ対等な関係で協働することができました。
デザイナーの役割は、最後のお化粧だけと思われてしまうケースも少なくありません。でも、本来は深いところにある本質をうまく汲み取ることが、デザイナーが発揮すべき能力なんです。

 

山出:現状のデザイナーのイメージはオペレーターに近いですよね。今回は最初にビジョンの共有をしたことによってそれぞれの専門領域から考えやすくなったんだと思います。デザイナーは“形にしていく仕事”というより“形になろうとする何か”を見えるようにしていく仕事ですよね。企業はイメージがぼんやりした段階で構わないので、早い段階から一緒に考える方が逆に効率がいいのでしょうね。

 

松本:企業はどうしてもお金を中心に考えるんですけど、デザイナーは“人中心”に考えるんですよ。プロダクトデザイナーは特にその傾向が強いです。家具や椅子のデザインは必ず人が介在するものなので。デザイナーは最後のコスメティックな仕上げだけでなく、最初の戦略から関わることが重要だと思っています。今、企業でも少しずつ縦割り型からクロスファンクション形式での取り組みが増え始めています。しかし、まだ地方では通用しないなというのをひしひしと感じます。

 

山出:事業承継などさまざまな企業の課題解決に対するマッチングサービスがありますが、たとえばそのシステム構築そのものにもクリエイティブが入ると、もっと可能性を広げることができるのかもしれませんね。

 

松本:そうですね。すごくいい技術を持っているのに後継者がいないという理由で事業を辞めてしまうのは残念でなりません。クリエイティブが入ってシステムデザインをして解決をしていかないと変わらないと思います。

 

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松本康史
大分県立芸術文化短期大学 准教授

1975年新潟県生まれ。デザイン系大学を卒業後、2000年まで医療機器メーカーのインハウスデザイナーとして勤務。その後、東北芸術工科大学の大学院に進学し、同大学の助手として2009年までデザイン教育の現場に携わる。フリーを経て大分に移り、大分県立芸術文化短期大学 准教授に着任。 大学ではプロダクトデザイン、家具・木工などを担当する。
http://yasushi-matsumoto.com