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INTERVIEW

Interview

2017.05.25

光の当てる角度を変えるように視点を変える

イラストレーター・陶芸家 中野伸哉

中野伸哉
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「安全の証」と言い換えれば、「傷」が「印」になるのです

 


 

山出:中野さんがプロデュースした『温故蜜柑』について教えてください。そもそもきっかけはなんだったのでしょうか?

 

中野:国東の農家『岸田果樹園』の岸田さんが僕のところに相談に来たのが始まりです。

岸田さんは、みかんの品質には自信があるのに売れなくて、「一度食べてみてほしい」って持ってきたんです。実は僕はみかんが苦手なんですけれど、食べてみたら信じられないくらい美味しかったんですよね。それで、これはなんとかしなきゃいけないなと思いました。

そもそも、甘みばかりを追求した酸味のないものが多く流通しているから、僕はみかんが苦手になったんです。でも、岸田さんのみかんは酸味と甘みのバランスがちょうど良かったんです。「これは絶対売れるよ」って言ったら「僕もそう思うんです」って。けれど東京の有名店に持って行ったら「美味しいけど、産地でもブランドでもないから扱えない」って言われたそうです。

 

山出:加工品ではなく、みかんそのものの売り込みとして持っていったんですか?

 

中野:そうです。そのときに岸田さんは、みかんは美味しいだけではなく、産地やブランドで売れているということに気づいたそうです。そこで、ブランドを作らなければいけないという思いに至り、僕のところへ相談に来ました。

 

山出:そういう案件って、通常は代理店が入って間接的に行うことが多いですよね。

 

中野:ええ、僕も農家さんから直接仕事を依頼されたのは初めてでした。でもそのときに、代理店やデザイン事務所が代弁する言葉と当事者の言葉では、熱量や厚みが違うことに気づきました。本人に直接聞かなければわからないことって多いんですよね。

 

山出:「そもそもどうなりたいのか」という、一番大切な核心の部分が見えにくくなりますからね。

 

中野:その後、福岡県の高級スーパーマーケットに営業に行くと言うのでついて行きました。彼は1日中、「美味しいですから食べてください」ってお客さんに営業していました。当夜の反省会で、僕は「美味しいですよ」と言うのをやめてみてはどうかと提案しました。本来「美味しい」というのはお客さんの反応であるべきなのに、その言葉を売り手が先に言うべきではないと思ったんです。

そこで、「懐かしい味」と紹介すれば興味を持ってもらえるのではないかという仮説を立てて、実践してみました。すると試食したお客さんは「昔のみかんはこんなに美味しくなかった」って言うんです。「懐かしくはないけど、美味しい」と言って買ってくれた人もいます。

僕たちはこうして、「みかんが口に入るまでは僕の責任、口に入れた後は農家の責任」という役割分担でブランディングをしていきました。ブランド名をつけたのはその後です。

 

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山出:それが『温故蜜柑』ですね。名前の由来については?

 

中野:「温」という字には3つ意味があって、僕が懐かしい味と感じた「温故知新」の「温」であり、「温州みかん」の「温」であり、「温泉県」の「温」でもあります。

 

山出:売れはじめたのは、名前とパッケージのブランディングをしたからですか?

 

中野:そうです。最初は『明治屋』に取り扱ってもらえるようになり宅配で人気が出てきました。

その後、生ものなのでロスを少なくするため京都市場に出荷するようになりました。京都市場は全国でもハードルが高く東京よりも高値がつくんです。現在はその京都市場で平均して3番目に高い競り値を出していますが、そこで実質1位をとるというのが僕らの目標です。また、国東市のふるさと納税でもかなりの人気商品となっています。

 

山出:みかん以外にも『ハンザキ柚子』という商品のプロデュースもされていますよね。これも生産者から直接依頼があったのですか?

 

中野:知り合いの方が定年退職で院内町に帰ってきて、無農薬柚子の生産を始めたんです。無農薬なので、花が咲いたときに『訪花害虫(ほうかがいちゅう)』による被害があるのだと聞きました。「ほうか」とは綺麗な名前ですが害虫です。この虫が蜜を吸うため花に入るといずれ実となる部分に傷を付け著しく商品価値を下げるそうです。

これは僕が『訪花害虫』を知らなかったということが重要です。生産者にとっては「悪いもの」という固定概念があるけど、僕は「綺麗な名前だな」と感じたんですよね。

 

山出:害虫が傷つけることで品質は変わるんですか?

 

中野:変わらないですよ。むしろ害虫が来るということは無農薬の証です。つまり、「傷は安全の証ですよ」と言い換えることができるんです。いいところと悪いところは表裏一体です。「傷」という表現を「安全の証」と言い換えれば「傷」が「印」になるのです。その印を『訪花の星』と名付けて、商標登録をしました。

 

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山出:傷物ってことがむしろ売りになるんですね。食の安全が大きな課題となっている今の時代において、すごく重要な考え方ですね。

 

中野:近所の農家さんからいただく野菜って大体虫食いになっているんですよね。農家の方はそれを「虫が食べるくらい安全なんだ」と言います。つまり、出荷用と自家用は違うんですね。自家用には安全なもの、出荷用は綺麗なもの。僕はその安全な方を地元の人から何時もいただいています。その価値を知ってほしいと思ったんです。

たとえば、料理学校で柚子ごしょうを作るとしたら、先生が「本場から柚子ごしょう専用の柚子を取り寄せています。ここに印がありますけど、これは『訪花の星』といって安全な証です。柚子ごしょうを作るんだったらこの『訪花の星』がある柚子を選んでくださいね」って学生に紹介するようになってくれるといいなって思います。こうやって、僕のプロデュースでは光を当てる角度を変えることにより、物の見え方を変えるんです。あばたもえくぼ、そばかすをチャームポイントにですね。

 

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編集長雑感

形のいい、大きさの揃った農作物の多くは農薬を使用しています。食の安全が注目されている昨今、『ハンザキ柚子』のブランディングでは「傷」を「安全の印」に置き換え、イメージを転換しました。中野さんは、ご自身が『訪花害虫』を知らなかったからこそ、新たな視点で価値を見出し、発想を転換することができたと言います。このような事例は、今後クリエイティブな視点や新たな発想を取り入れるうえで、大変参考になるものでした。

Profile

中野伸哉

Shinya Nakano

イラストレーター・陶芸家

1958年福岡県出身。1979年、NHK(東京)にて番組制作(特殊美術)に参加後、1982年に渡米。その後、ニューヨークでの作品制作を経て1989年に渡豪、シドニー現地新聞社に勤務。帰国後、1999年より国東市に『陶器・ガラス工房 ラパロマ』、その後『ギャラリーマスヤ』オープン。企業のプロデュース、商品企画、地域プロデュースなどを手がける。
主な掲載雑誌は『プレジデント』、『プレジデントファミリー』、『ベースボールマガジン』、教科用図書など。主な企業・地域プロデュースに『潮騒の宿 晴海』(別府市)のブランディング、『温故蜜柑』(国東市)など。大分県国東市広報アドバイザー、宇佐市6次産業アドバイザーなども行う。
株式会社 国東七(Kunisaki Seven Inc.)取締役 会長。

 

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